世界の広さはキミ次第だと思う
2011/08/12 10:27




 人間は嫌い、と昏い瞳で吐き出した子供はそのまま膝を抱えこんだ。
 その姿に胸の奥がツクリと傷んだのは、子供がまるでかつての主のようだったからか。
 母の愛を受けられず、居場所もなく、存在すら消されると怯える無力な存在。だからなのか、普通なら口にしないことを上らせたのは。
「俺の所に来るか? 今よりはマシなはずだ」
「いかない」
「なんでだ?」
 抱えた膝に伏せた顔を少しだけあげて、まっすぐ俺を見詰める。昏い何もかも諦めようとしている目で。
「いかない。人間はキライ」
「俺も嫌い、か」
 それも仕方ないと呟いたそれは些か低くなってしまい、俺の呟きを拾った子供はびくりと震え、また膝に顔を埋めてしまった。怯えさせたことに舌打ちしそうになる。それではますます子供を怯えさせてしまうと、代わりに縮こまった背中をそっと撫でてやる。
 やはりびくりと震えられたが、しつこく撫で続ければ強張っていた肩が僅かに弛んだ。
「………じゃない」
「ん?」
 顔を埋めたまま話す子供の声を聞き逃し、聞き返せば少しだけ声が大きくなった。
「片倉はそんなに嫌いじゃない。片倉は人間だけど他の人間よりは嫌いじゃない」
 だけど、と子供は続ける。
「わたしは人とは違うから。行ったら壊してしまう。請わしてしまう。乞わしてしまう。だから行かない。往けない。わたしは、わたしは……禁忌の仔だから。生きては逝けない個だから」
 震える声で言い切ってますます縮こまった子供に、言い様のない怒りが胸に蠢く。この怒りは子供に向けたものなのか、この子供にそんなことを言わせてしまった自分に向けたものなのか。
 だがこんな子供をこのまま放っておけるはずもないのだ。
 甘いと言われようが、情が移ったのだから仕方ない。そもそも本当に危険ならば何度も子供のもとに通わず、とっとと斬り捨てるかしている。
 俺は今度こそ舌打ちして世界を拒絶する子供を抱えあげた。驚きと恐怖にまみれた声が俺の名前を呼ぶが、構わず乗ってきた馬へと向かう。
「イヤだ、降ろして!」
 手足をばたつかせて俺の手から逃れようともがく子供を落とさないように馬上へとあがる。急に高さを増した視界に驚いたらしい。暴れていた子供の手が、首に回りしがみついてきたことに、俺は口許を歪ませた。




ある意味誘拐してるよ、小十郎さん。このあと連れ帰ったところでちょっと仕事から逃亡を計ろうとした政宗と鉢合わせたり。前にネタだけ出したアルビノっ子の別バージョンだったり。
2011/5/17 19:25 に投下したのを再投下



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