APH 朝菊(朝)/仄暗
2011/08/12 10:16

 いっそ小気味良い破裂音と共に頬が衝撃を受ける。
 叩かれたのだと気付いたのは、返す掌で反対側も叩かれた後だった。
 じんじんと熱を持ち始めただろう頬に触れることもせず、私は磨き上げられた床と握り締められた彼の手を視界にぼんやりと収める。私の頬を打った彼の顔を見たいと思ったが、同時に自分の顔を見られたくないと思ったため、私は彼から顔を背け続けた。
「……なんで」
 震える声で苦い言葉を吐き出すのは、私ではなく彼の方で。
 何故、だなんてそんなこと分かりきっているはずなのに。
「なんで、なんでなんでなんでなんでだよっ」
 怒りと悲しみが綯い交ぜになった声は、私の胸の深く昏い場所を甘く刺激する。視界の端で痛々しいくらいに握り込まれた彼の手が嬉しい。
 仄暗い悦びが自身を満たしていくのを感じて、俯いたまま口元を歪めた。
「なあ菊っ理由を言えよこんな……なんでだよ、なあッ!」
「っ」
 急に強い力で肩を掴まれて、息を飲む。
 思わず顔を上げれば、眉根を寄せて眉間に深く皺を刻んだ彼が、泣きそうに怒っている彼の表現が目の前にあった。水の膜を張った目の中でペリドットが揺れている。
 ああ、なんて綺麗なのだろう。
「……菊……なんでだよ……」
 もう泣いているのと変わりない声がまた、何故、を繰り返す。
 繰り返しながら、縋りつくように私の肩口へ顔を埋めてきた。 ぽつぽつと落とされる言葉と水に私はこれ以上ないくらいの幸福感にうち震える。
 残念なのは流れる泪が見えないことくらいで。
 横に垂らしたままだった腕を、彼の背中へと回す。そっと抱き締めれば、それ以上の力で抱き締め返される。
 何故、だなんてわかっているでしょう?
「……貴方を愛しているからですよ」
 仄暗い愛を彼の耳に吹き込んで、私は満足気に微笑った。















……なんだろコレ。ゴメンナサイ。
もはや、よくわからない物体になったんだけど。しかも片方は名前出てないし。
イギイギが受けっぽいですが朝菊です。えぇ。朝菊と言い張ります。



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