世界に繋がる物語
2011/12/19 12:47



 ――これは、私達が繋がるための物語。



 世界とは斯くも儚いものなのか。
 どこかの小説で出てくるような、そんな煽り文句が頭を掠める。
 儚いからこそ世界は、人は輝いているのだ。
 なんて格好良い文句だろう。
 私の頭では、その煽り文句が渋い声で朗々と語られている。
「Bonsoir. Mademoiselle」
 とはいえ、いつまでもこうして小説っぽい夢を見続けているわけにはいかない。それに、こう登場人物が自分以外にいるとか、もっと楽しげな場所であれば目を覚ますのを勿体無いと思うかもしれないが、残念ながらそういう楽しそうな印象とは程遠い内容である。
 草も花も生えていない。細く朽ちた木が申し訳程度に地面に刺さっている。その地面も乾燥していて、風が吹くたびに土埃が起こる。空は暗く、不気味な紫電がヒビを入れていく。
 冒頭から私の脳内を流れるナレーションでも言っているが、世界の儚さを具現したかのような光景。それが今の私がいる場所だった。
 タイトルをつけるなら、まさに『世界終焉』である。
 しかし、この場所。どうにも見覚え・・・・・・というと語弊があるか。なんというか想像覚えがあるのだ。
「うーん・・・・・・どこで、だったかなぁ」
 じっと目の前の風景を見詰めて、思考の引き出しを探る。ここ最近に想像した内容で、あまり幸せじゃないようなもの。確か、結構なんだかんだで人が死んでいくようなやつだった。
 不毛の地。行き止まり。
 そんな単語が脳裏を過ぎる。
 ああ、そうだ。思い出した。
 いつもなら考える時間などなくても出てくることは、やはり夢の中では勝手が違うらしい。夢を見るのに脳の活動を使っているからかもしれないけど。私は医学的なものはさっぱり分からないから、勝手にそう納得する。とにかく、脳の構造がどうとか話を飛ばす前に、思い出した内容を留めておかないと。一度思い出して、すぐに忘れると再び思い出すまでに時間がかかるから。
 思い出したのは、一つのグループ。グループと称していいのか微妙なところだが、一年半くらい前に私が出会った音楽集団。その楽曲に似たものがあった。似ているというか、こんな情景のままだったはずだ。つまり、あまりにもハマリ過ぎた私は、夢でまで彼らの世界を想像したわけである。
 なんて分かりやすいオタク脳だろうか。
 でも、どうせならもっとこうウハウハな内容が良かった。不毛な地で一人とは味気ない。
 希望としては、幸せなロマン夢。次点で幸せなミッラミラ夢。大穴は・・・・・・あれだろうな。残念だったねェ、良い意味で。とか。あの方のキャラはどれも濃いし。
「・・・・・・あれ?」
 そういえば、さっき私以外の声がしたような気がする。あの、胡散臭い喋り方をする男の声で。公園に出没する紳士のセリフを。
「Bonsoir. Mademoiselle」
 そうそう、こんなせりふ、を。
 ぴきり。と漫画だったらそんな擬音語が装飾文字で描かれていただろう。真後ろから、息たっぷりに囁かれた私は、不本意ながら数瞬ほど活動の全てを停止した。思考も、呼吸も、心臓も。視覚や聴覚は残念ながら生きたままだったので、私が硬直している間に後ろから回りこんでくる、胡散臭い髭の紳士をしっかりばっちりと認識していた。
「ようやく気付いたかね。君はどうやら少しばかり注意力が足らないようだ」
 くるり、とステッキを廻して胡散臭い髭の紳士――長いうえに面倒なので、勿体つけずに賢者と呼ぶが――が私の顔を覗き込んできた。
 胡散臭いが服を着て歩いている、といっても過言ではない男。ちなみに胡散臭いは褒め言葉である。なので、怒らないでほしい。誰に言い訳しているのか分からないけど。
「Mademoiselle?」
 反応を示さない私を不振に思ったのか、賢者が顔の前でひらひらと手を振ってみせる。
 その頃には私の硬直もようやっと解けていた。ただ、本気で止まったであろう心臓が再び動きだした時はちょっと苦しかった。動悸、息切れ、気付けに良く効く丸薬を下さい。マジで。
 とにかく、賢者の動きの一切を無視して、動悸、息切れ、眩暈、その他諸々の諸症状が治まるまで動くことを拒否した体とは反面、思考の方は回復した途端に物凄い勢いで妄想を始めていた。なにせ夢の中とはいえ、賢者のご登場である。しかも、曖昧なものではなく、彼の人が扮するちゃんとした賢者。それじゃあ、結局のところ彼の人なので、彼とは似て非なる賢者。賢者という単語が世界一似合わない男。そんな胡散臭さが滲み出ているのが、素晴らしい。夢とはいえ素晴らしい。夢を見ているのは私なので、つまるところ私の脳味噌万歳である。想像力逞しいのが、中学二年生とオタクと腐女子であるのは、万国共通のお約束なのだ。そんなわけで、私は目の前の賢者を上から下まで嘗め回すように視線を這わせ始めた。
 身に着けているものがどれもボロっぽいのに、それがまた良く似合っている。典型的な紳士髭もまた然り。
「不躾で悪いですが、例のセリフが聞きたいです。ムッシュサヴァン」






続かない。





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