そういえばもうイヴェールの季節だ
2011/11/17 08:43




 ひとこと吐き出しただけで周囲の空気が凍りついた。
 すぐさま桃色だいすきな魔導少女が、あんた何言ってんのよ! と怒鳴る。黒と青が険しい顔でこっちを見ていて、ギルドの首領と海賊少女まで憤り顔を向けてきた。ワンコまで睨みつけてきている。
 ただ、むらさきだけは少し悲しそうに笑っていた。
「しにたければ、しねば?」
 もういっかい桃色に向かってアリスは声をだした。ほんとうはあんまり喋りたくないけれど、桃色にたいするムカつきは口を開く面倒臭さを軽く凌駕していたから。感情を抑えて黙っているほうが疲れるときもある。充満するエアルも鬱陶しい。いくらエアルを還元する剣があってもこの濃さには辟易する。
「口がうごくなら、舌かんででも自分でしね」
「ッアンタいい加減に黙んなさい!」
「……わた…し、」

 魔導少女がまた怒鳴る。
 しかし、黙れといわれて口を閉ざせるほどアリスの胸に渦巻く感情は弱くなかった。まとわりつくエアルで普段以上にダルい足を進める。
 囚われて傀儡に成ったあげく死を懇願する愚かしい小娘に向かって。
「きみのことが大好きで大切だと思っている人間たちが形振り構わずこうしてきみを助けようと危険に身を曝しているのに、そんな彼らに向かって殺してくれなんてバカにしてる。利用されたくないなら、傷付けたくないなら、殺してくれと頼むくらいなら、彼らがこうして助けにくるまえに自分でケリをつければよかったじゃないか」
 喋りながらカロルとパティの間を抜けて、リタの横を通り。
「バクティオン神殿でだって、やめろと叫ぶまえに出来ることはあっただろう」
「アリス!」
 クリティアの彼女が言葉と足を止めさせようと伸ばした手を、アリスは叩き落とす。桃色が震えて後退く。
「わ、たし…わたし、は…」
「ユーリくんは優しいからきみの命をも背負う覚悟でこうしているのに、きみは自分の力や責任や選択から目を背けて逃げるのかい?」
 ああ、身体を取り巻くエアルがキツイ。桃色を縛る術式がキツイ。彼女を苛む罪悪感が、キツイ。
「そんなに死にたいなら誰の手も煩わせず、彼の手を汚させずに死にな」
 優しい罪人は覚悟を決めて来ているけれど。望まないのだ桃色を手にかけることなんて。だって助けたいんだ。助けるために命をかけてここまで来たのだから。
 ユーリの脇を喋りながら歩き過ぎる。
「でも、その死は本当にきみが望むものかな。ほんとうに死んでしまっていいのかい? 彼らの願望を、騎士たちの努力を踏みにじってまで叶えたいシロモノなのかい?」
 桃色は握った剣を震わせて、意に沿わない体を無理矢理押さえ込んでいるように見えた。可哀想な姫さんだと思う。だけど愚かしい娘だとも思う。アリスは桃色を取り囲む大バカ者の施した忌まわしい鳥籠へと手を伸ばし。触れた。ばちりと拒絶されるが如く弾けた術式に眉をしかめるが、手を離すことはしなかった。
「アリス?!」
 誰かが上げた声に薄ら笑いを浮かべて、アリスは籠の中にいる桃色へ喋り続ける。
 鳥籠の術式に制御盤を使わず直接介入しながら。
「ねえエステリーゼ。きみは本当に死にたいの? 違うだろ? きみは生きたいんだろ? だったらちゃんと口にしなよ。くだらない懇願じゃなくて、本当にほんとうの気持ちを請願しなよ」
「わたし、わたしは…」
「だいじょうぶ。こわがらなくていいんだよ」
 エステルを縛りつけているアレクセイの支配を慎重に崩していく。鳥籠の力が触れている腕を通じてアリスの内に澱になっていっている。腕の表面を術式が這いずる光景に、自分でやってて見れたものじゃないと笑った。
「ユーリもラピードもカロルもリタもジュディスもレイヴンもパティもフレンもエステルがかえってくるのをまってるから」
 からだの半分をやっぱり無理矢理に鳥籠に突っ込んで、両手で桃色の涙に濡れる頬を包んでやる。それから、アリスはさいごの言葉をエステリーゼにかけてやる。
「きみのほんとうの願いを言ってごらん」



「私は、みんなと生きたい!」








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