誕生日プレゼント

コンロがスイッチ一つで点火するのが当たり前の現代。そう思うと薪を割って、火種を作っていた時代の調理工程というのは、今の何倍も贅沢なのかもしれない。嫌になるくらい澄んだ青空の下、マンションのベランダにて。火の粉をパチパチと弾けさせて、七輪の前を陣取っていた。昭和の暮らしが記されていた歴史の教科書を見て、小学生ながらに心の贅についてぼんやりと考えていた事を思い出す。今思うと、私は随分ませていた子供だった。興味のあるものは本くらいで、友人に遊びに誘われると応じるが、進んで外に出ようとはしない幼少期をのんびりと過ごしていたのだ。だが、幼心が熟しきっていなかった反動が、大人になって春一番の如く訪れる。新聞紙の上で、今か今かと出番を待ち焦がれる七輪がその証拠だ。一度興味を持った物を買わずにはいられない悪癖が出来てしまった。
「……何してんだ?」
「お正月だし七輪でお餅焼いてみたくて。自分の誕生日プレゼントに通販で買っちゃった」
 ガラス窓がカラカラと音を立てて滑れば、頭上から声が降り注ぐ。振り向けば陣平君がタバコを咥えながら、怪訝そうな目で火鉢を見詰めていた。
「また妙なモン買いやがって……」
「美味しいお餅、食べたいじゃん」
 私は彼に笑いかけると、七輪の上に網を乗せて火箸で炭の位置を調整する。それから、用意していたアルミホイルを巻いた餅を置いた。じわっと広がる熱気に、思わず口元が緩む。そろそろかな、と思ったタイミングで火箸を持ち上げて、焼き上がったばかりの餅を引っくり返した。私の行動の一部始終を眺めていた陣平君は小さく溜息をつくと、灰皿にタバコの火元を押し潰し、こちらへ寄って来るなり口を大きく開ける。まるで親鳥の餌を待つ小鳥のようだ。
「もー、しょうがないなぁ」
 苦笑しつつ、私が彼の口に一個目の餅を入れてあげると、「んまい」と満足げに咀噛する陣平君。なんだか可愛く思えて、二個目を彼の口に入れてあげた。
「お前の誕生日なのに俺の方が食っちまっていいのかよ」
「うん。今日は自分のしたいことしかしないって決めてたから」
 私の言葉に彼は一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、すぐに「変な奴」と言って、優しく微笑んでくれた。そして再び大きく口を開けたので、今度は自分で食べるように促す。すると、不満そうに唇を尖らせる彼。私は吹き出しそうになるのを堪えて、まだ焼けていない残りの餅を網の上に乗せた。
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