友人の松田に
「おっぱい揉みたい?」と聞いてみた。

 なぜ呼び出してきたかがわからない彼を目の前に、わたしはスマホでネットサーフィンをしていた。煙草の吸える喫茶店。赤いソファーに彼は私を座らせて、一方その彼は向かいの椅子にデカい態度で座っている。
 このようにして呼び出されるのはいつも通り。でも呼び出されるだけで、特に行きたいところだとか、やりたいことがなければ、ここでだらだら過ごすのがわたしたちの恒例になっていた。
「女の子って三種類いると思うんだけどさ」
 そんななか、ふと先日のことを思い出してそう口にする。
「あ?」
「わたしってどれだと思う? いち、彼女用の女。に、友だち用の女。さん、セフレ用の女」
「あ? なに? は?」
 この話を急に松田に持ちかけたところ、彼は大変目を丸くして聞き返してきた。
「つまりヤる用の女か、そうじゃないかが知りたいんだけど」
「なんだよ急に」
「それがさー、聞いてよー」
 飾りっけのない自分の爪をいじりながら、いじける。
「この前ね。影でさ? 同僚がわたしの噂してて『おっぱいでけーし一回ぐらいヤりてーよな』って話しててさ。わたしってそういう目で見られてんだ? と」
「それどいつが言ってたんだ」
「忘れた。いっぱいいた」
「いや、そこは覚えとけよ」
「それでさ? もしかしてわたしに彼氏ができないのは、ヤる用の女だからなのでは? と」
「なんでそーなんだよ」
「この前友だちと喋ってて男から見たら女なんて三択だよねー、て話になってたしかになー、て思った」
「わっけわかんねぇ」
「それで男で聞けるのなんて松田ぐらいだから聞いてみた」
「他のやつにはぜってー言うなよ」
「うんうん、言わない」
 できるだけ真剣な瞳をして、彼の言うことに同意した。そしてもう一度問う。
「極端な話、ヤれる? ヤれない?」
 その質問に、彼は大きく溜息をついた。いくらわたしたちの仲が良いからと、さすがに厳しい質問だったようだ。
「ごめん、友だちだから答えにくいよね。じゃあ質問を変える」
「いやそういう問題じゃねぇんだよ」
「おっぱい揉みたい?」
 ぐ。
 彼の喉が鳴った。愚問だっただろうか。
「いや、おっぱいは誰でも揉みたいか……」
「……あのなぁ。俺が例えば揉みたいっつったらお前どーすんだぁ?」
「ん、そうだなぁ」
 三コマ分ほど顎に手をやって考えてみる。ただ揉むだけなら、高校時代に友人同士でやっていたわけだし、全然いけるかも。
「お腹揉まれるより全然いい!」
「だからそうじゃねぇんだって」
 すると彼は、スマホを片手で操作し始めた。ポケットからワイヤレスイヤホンを取り出して、音のチェックをして、ホレ、と片方を渡してきた。そしてスマホの画面を観るように手招きした。
 画面には、女性がひとりで椅子に座ってカメラに向かっている様子が映っていた。松田の長くて細い指が、再生ボタンを押す。
 動き始めると、すぐにすっぱだかのさっきの女性が、乳首を立て、その周りを男の手のひらで弄ばれていた。白くて柔らかそうなおっぱいは、包むように揉まれては手を離されて、たゆんと揺れて、物欲しそうに女性が上目遣いをすると、人差し指と親指の腹でゆっくりと挟まれた。しこしこと指で擦られて、乳首は目に見えてさらに硬くなっていくのがわかった。色目気づいた女の声がイヤホンの奥から流れてくる。
 え、わたし、なんてものを見させられてるの?
「な、ま、ま、まつ」
 シーンが終わると、次は挿入シーンに移ってしまい、見ていられずにワイヤレスイヤホンを外してからわなわなと口を震わせた。
「俺がお前のを揉むってのは、こーゆー感じ」
「み、見せなくても、いいじゃん」
「わかってねぇからだろ」
「なにを?」
 松田はもう一度手招きした。性懲りもなく、わたしは顔を近づける。彼の口が耳に近づいて、低い声で囁かれる。
「俺は、お前とヤれるっつーこと」
 驚きで固まれば、息を大きめに吸った松田がゆーっくりとわたしの耳目掛けて息を吹きかけた。わたしは肩を揺らし、急いで距離を取って、目を見開いて彼と視線を合わせた。口を笑わせた彼は、まさに『確信犯』という言葉がお似合いだ。
「どれが良い?」
「へ?」
 質問されると思っておらず、素っ頓狂な声が出る。
 松田は一本ずつ指を立て、挑発的な笑みをしたまま見つめてくる。
「いち、彼女用の女。に、恋人用の女。さん、俺だけの女」
 それ以外の選択肢はないらしい。
 とんでもない選択肢を突きつけられ、目を丸くして今言われたことの事実確認を脳内で処理する。えぇ、全部大体一緒じゃない?
「なんにもわかってねぇやつには教えてやんねぇとなぁ?」
「教えるって、なにを」
「普通さぁ……、気づかねぇ? こんだけ用もねぇのに呼ばれといて」
「い、いや、前からだし、暇つぶしだと、思うじゃん」
「あーあ、やだねーえ。これだから女友だちってやつは」
 女友だち。この単語は、一種の嫌味に違いない。
「ちなみに、」
 また彼はスマホを触り、テーブルに置いて画面を見せてくる。地図アプリが開かれており、ここからほんの少し行ったところの地図が表示されていた。行ったことのない場所なので、地域名の見覚えは薄かった。
 不思議そうに、スマホと松田の顔を見比べていたことだろう。
「ここから一番近いホテル。徒歩約五分」
 つまりそれは、
「さっきの三択からどれになりてぇか選べよ。選択次第で連れてくから」
「……どれ選択したら、ここに、いくんでしょうか」
「ああ、そうだな。いちと、にと、さんだ」
 お前、それ、全部じゃん。
「で、は……。」
 そうして消え入るほどの声量で「ぜんぶで……」と呟いた。
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