2-6ヶ月目

 会いたい。そう簡単に思えるほど、私たちは若くない。若くない、はず、なんだが。
 清水寺、知恩院、南禅寺、二条城、京都タワー、ちょっと足を伸ばして平等院。息切れするほどに、観光名所をまさかのサイ犯の警視に連れていっていただけるとは思ってもみなかったが、遊ぶことを忘れていた私にはちょうど良かったのかもしれない。パワフルさに眩暈をどこか感じながらも、どうやら良い効能があったらしい。疲れたおかげで夜にはぐっすりと眠ることができ、肌の調子は良くなり、頭もすっきりした。
 たくさん撮った写真を眺め、映りの良いものを選んで選択する。選択した写真はとある人物へ送信され、すぐに画面には『既読』の文字が表示された。相変わらず彼はまめな人間なようで。
 携帯電話の画面を閉じ、幾分と楽になった体に鞭を打つために立ち上がる。
 本日から本格的に研修が開始される。さて、ここの府警は問題がないか見もの、だな。

   ***

 講義の前に軽いテストを行い、現在のITリテラシーの知識を確認することから始まり、テストの点数に応じて講義の内容を変更するようにしている。見る限り、いまのところ京都府警の成績は悪くなさそうだ。一番問題がありそうな結果だったのは警視ぐらいだったが、まあここの業界にはいってきたのはつい最近だと言うし、それを考えればまだマシな結果だっただろう。
 そのまま難なく最終の講義を終えて、さあいざ次の街へ、と言いたいところではあったが、「ちょお待ち」と綾小路警部に声をかけられた。講義が始まってからはほとんど話をしていなかったので、こうして彼の姿を目の前で見るのは先日の飲み会ぶりである。
「はい、なんでしょう」
「この前はえらいすんません。ちょっと記憶がないんやけど……」
「そ、そうですか」
 苦し紛れな笑みで返すと、彼は怪訝な表情を見せてから「まあええわ」と話題を変えた。
「このあとの予定は?」
「大阪府警の予定でしたが」
「そんなことやろうと思ってやな」
「……と、言いますと」
「話、通しときましたんで今回は東京に帰ってください。確かに移動は勤務には含まれへんけど、それにしても休み返上して移動にあてすぎやと思いますわ」
「そこまで心配されているとは」
「僕とちゃいます、やめてください」
「じゃあ誰なんですか」
 はあ、と彼は致し方なさそうにため息を吐いた。それから辺りを見回して、ひとがあまりいないことを確認してから咳払いした。
「警視の姪っ子はん、あんたのとこの部下らしいんですわ」
「ど、の子でしょうね。女の子……といえばたしかにひとり心当たりありますが」
「その子なんとちゃいます? 松田刑事も心配してはったそうですけど、まっさきに連絡してきたんは姪っ子はんや、聞きましたよ」
「部下に心配かけさせるなんて……」
「ほんまやわ。まったく」
 呆れる彼に、苦笑を返す他ない。
「今回の大阪府警行きがなくなったのは姪っ子はんから警視に連絡があって、松田刑事からも連絡があって、僕のほうにも伊達刑事から連絡があったからです。肝に銘じて帰ることやな」
「は、はーい」
「ああ、でも」
 彼はあくまでもいま思い出したような素振りをした。おそらく実際はこのために声をかけてきたのだろう。
「その姪っ子はん、ちょっと気ぃつけたほうがよさそうやったなぁ」
「というと?」
「まあ独り言やと思っといてください。ほなさいなら」
 彼女と関わりのなさそうな彼が、なぜそこまで言い切れるのか。そしてなにを気をつければ良いのか。一体何が彼をそう言わせたのか。
 背中を見せてさっさと自席に戻った彼に、軽く頭を下げて京都府警をあとにする他、私にはなかったのである。
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