3−3−2
無理矢理に太い指で歯を押し上げる。淡いながらも赤に近い舌を引っ張るように二本の指で挟み、溜まっていく唾液を眺めてから唇を重ねた。溜まりすぎた唾液は端から零れ、安室はそれを追いかけて舐めとった。
彼女は安室の首にしかと掴まり、出ていった舌を求めた。
「煽るのがおすきなんですね」
質問をしてはみるが、彼女は知らんぷりをして口を閉ざす。何も発さないまま捕まらなかった舌を野放しにして俯いた。
「いいんですよ。そのほうがよっぽど良い」
慰めのことばを聞いて「少しは恥があるんですよ、わたしも」等と我に返った発言をした。
「恥れるほど余裕があるということですね」
前の彼女の乱れた姿は精神的に崩壊していたのだろうと安室は踏んでいた。彼でなくとも余程頭の悪い人間でなければ気づけるほどに、彼女は乱れた発言をしていた。受け入れてくれるひとを探し求め、自分を腫れ物などと浮いた人物だった。
そっぽを向いた彼女は、ジト目で安室の様子を伺うと小さく口を開いた。
「この前は、ごめんなさい」
あの乱れっぷりのことだ。
「自分でも驚いてるの。よっぽど何かが怖かったみたい」
怖かったみたい。曖昧に言ってみせているが、実際に彼女が怖がっているなにかというものを本人はわかっている。それはなに? 等と聞かれる可能性から逃げたことば選びだ。
「パニックに陥ることは、人間誰しもあることです」
多少でも落ち着くように。彼女の顔を自身の手で正面を向けさせ、できるだけ優しく額にキスをしてみれば、うっすらと眉間皺を寄せて、まるで切ないような、幸せのような、全てを噛み締め味わっているかのような。そんな表情をした。
安室の手から逃れようと再度そっぽを向こうとするが、そんなことを彼が許すはずがなく、キスを雪崩こませる。苦しそうな声が次第に官能的な吐息に変わり、呼吸困難に陥りそうなほどに空気を求めながら、それ以上にお互いがお互いの唾液を貪る。
ベッドにも行かずして、ふたりはただ貪欲に相手を求めた。
お互いの瞼がうっすらとだけ開く。性欲の表れは、いつになく極端で「ベッドにいこう」と残った理性を絞って彼女は彼を誘った。