「はろー、盛り上がりのところ悪いけれどお邪魔しちゃうよー」
「み、みお!……と、誰?」
「は?ま、曲識のにーちゃん……?」
「うん、家族の驚いた顔を見るというのも悪くないな」
「あ、おねーさん無事に返してもらえた………ってお前は…」
「げ……最悪ですねー」


みんなが一気に話し出したためごちゃごちゃしたけれど、そこはご愛嬌だろう(ちなみに言うなら上から帰ってきたのか、ミオちゃん綱吉くんひとしきくん曲識さん出夢くん姫ちゃんだ。
潤さんは面白そうに笑っていて獄寺くんはやけに疲れた顔をしていた。出夢くんのハイテンションに疲れたんだとぼくは思っている。悪戯が成功した子どものように無邪気に笑うミオちゃんに連れられたみんながこの広い部屋にやってきたみたいだ。……ってそうだ。ひとしきくんと曲識さんはいい、《家族》だったというならば関係は悪くないはずだ。だけど出夢くんと姫ちゃんはダメだろう。――一度殺されても生きていた、命のストックが2つあった出夢くん。しかしその代償として妹の理澄ちゃんの命が《喰われてしまった》。そしてその主なる原因のひとつが姫ちゃんだ。そしてその姫ちゃんは、蘇った出夢くんに、殺された。
いまのぼくはどちらもよく知っているから、どちらの信念も知っていたから誰を責めるとかはできそうもなくて。ただふたりが睨み合うのを見ているしかなかった。――いや、それじゃあダメだろう元《戯言遣い》。何のためにぼくは友と生きていったん
だか。


「なあんでお前がこんなとこにいるんだ?もしかしてまた僕のかわいい妹の意図でも切りにきたか?」
「はっ!随分と自意識過剰じゃないですか。姫ちゃんはただ師匠に会いにきただけなんです。《人喰い》兄妹なんかに興味はありません」
「――ふたりとも、いい加減にしてくれるかな。いまもしここで殺し合いなんておっ始めたらぼくはふたりを許さないよ。…まあそもそも始める前に潤さんにボコボコに止められるだろうけど」
「あー確かにあたしの前でくだらねえ喧嘩は許さないよなあ…」
「!? じょ、冗談キツいだろ、おねーさん」
「師匠っそれは酷すぎますよ!」
「残念ながらぼくは生まれてからこのかた一度も冗談を言ったことはないんだ」


戯言だって言うにはあからさますぎるけどハッタリは大きいほうがいい。ハイリスクハイリターン、どうせバレてるならかえってくるものも大きくね。
面白そうに笑う潤さんにふたりはもう一度睨み合って、顔を背けた。互いにゆるしはしないだろう、だってそれぐらいには因縁は深い。だけどそれをいま吐き出すには、ふたりは《匂宮出夢》として《紫木一姫》として生き過ぎてる、とぼくは思う。


「仕方ありません、師匠がそういうなら姫ちゃんは従いますよ」
「うん、ありがとね姫ちゃん」
「いいえ姫ちゃんは大人ですから!」
「……まあ僕もそこまで馬鹿のつもりはないからさ。おねーさんが嫌だっていうなら止めるさ」
「出夢くんもありがとう」


ちゃんとぼくの言うことを聞いてくれたふたりに、ほんのちょっと、かすかにだけど笑みを零した。戯言かもしれないけどね、こうやって話して関係が築けるぐらいにはふたりには好かれてると思っていいはずだ。…隣でミオちゃんが「無自覚微笑みにひーくんノックダウン!」とか呟いていたのは気になるけどさ。


「さてと、みんな出揃ったことだしあたしらは次んとこ行くか」
「え、」
「えぇええ!?早くないですか、退場?!」
「馬鹿だな沢田くん、最強ってのは引き際もわきまえてるものなのさ――っていうか次の仕事が入ってていまこうしてるのもギリギリ」


そうだった。哀川潤という存在は、本来ならばとても忙しくて気軽にコンタクトをとれる人じゃないんだった。それはこの《二週目》だってそうそう変わりはしないだろう。――相変わらず嵐みたいな人でぼくを平気で巻き込んで、でもそれが嫌じゃなくて、こんなあっさりと別れるのが寂しくなる《最強》な人だよなあ。なんとも言えずにぼんやりと潤さんを見ていたら「そんな顔してんなって」と頭をくしゃりとされて笑われた。…どんな顔してたんだ、ぼくは。


「世界は広いけど狭いんだ。また時間が取れたときにでも遊びにきてやるよ」
「出来たら今回みたいに強引に攫っていくのは止めて普通に来てください」
「それじゃあつまんないじゃん。あーでも、崩子ちゃんみたいにいろはでもブーイングが入るようになっちまったからなー」
「当たり前だ、最強。いろはちゃんまた攫ったら今度は最終が出てくるかもしんねーよ?」
「うげ、流石のあたしでも勘弁だよ、それは」
「あ、そういえばいまどれくらいぼくの知っている人とかがこの「世界」にいるんですか?」
「――さあな、あたしだってそりゃわかんないさ。どっちかっつーとそれはそこの天才娘の専門だろ」
「うー責任丸投げかあ潤さん。だけどぼくもまだ調べきってないからわかんないよう、ごめんねー」
「う、うん?」


ミオちゃんの笑みに少し違和感を感じたけれど、他のみんなが。特に綱吉くんが突っ込まないのなら気のせいで済ませていいんだろう。潤さんはそのままカツカツと部屋の出口まで歩き始めて、ひとしきくんと話していた曲識さんも話を終えたのかそれに続くように歩き始める。


「あ、そーだ。沢田くんに一言」
「お、オレ?!」
「うんそう。あんたのことはボンゴレの親父からもよく言われてさー。――あたしから見たらあんたは間違えなく主人公だ、いろはみたいな語り部志望とは違った、あたしの大好きな王道展開の成長していく主人公。これが漫画化されたら間違えなくべた褒めするね。だからそんな成長にかけて、いろはをはじめとした奴らをよろしく頼むよ。リボーンの弟子なら間違いないだろ。本当はあたしがついてるのが一番いいんだろーけどそうはいかないし」
「あいかわさん……」
「こら、あたしを名字で呼ぶな。そう呼ぶのは敵だけなんだから。もーあたしらは敵じゃない、そうだろ?」
「! は、はい!えっと…潤さ、ん」
「いーお返事だねえ。ま、そういうことで行くぞ曲識、一姫」
「ああ、潤。じゃあ元気で人識、いーたん。僕はお前たちが僕の家族となることはいいことだと思っているから」
「おうよ、曲識のにーちゃん。あんたらから受け継いだなんたらで頑張るさ」
「う、うう…姫ちゃんは師匠と離れたくないですよー!」
「ん?じゃあ残るか、一姫?」
「! それは…随分と魅力的な提案ですけれど、師匠!姫ちゃんは世界を回ってもっと強くなって(殺し屋を瞬殺して)帰ってきますから待っててくださいね!」
「? うん、待ってるよ」
「おいてめー物騒な()があっただろ、おい」
「なんのことですかー?」


なんて最後まで戯れながら三人は去っていった。嵐みたいだ、と言ったけど嵐にたとえるのにも勿体無いぐらい、忙しい人たちだったな、なんて。


「……とりあえず、帰ろうか?」
「うんそーだね、つーくん。お母さんにまだ帰ったって言ってないし」

「あれミオちゃん、直行したの?」
「そりゃもちろん、いろはちゃんに素敵な出来事が起きてる気がしたからねえ」
「……母さん、怒ってたよ」
「うそー!?」


仕方ない、けどと苦く笑ったミオちゃん。だけど騙されちゃいけない、彼女だって今回の事件の首謀者だ。そして止めなかったぼくも同じように、首謀者。加害者ではなくてね。そして加害者だった綱吉くんとかひとしきくんにお疲れさまの気持ちを込めて「早く帰ろうよ」と言った。被害者のいないこの事件、さっさと終わらせてしまおうと、だけど終わってみるとなんだか馬鹿馬鹿しくて誰からともなく、わらった。










――後日談。これは別になくてもよいかもしれない話だけれど、あって困ることのない話でもある。いや、むしろないほうがよかった話だ。その証拠に語り部であるぼくの預かり知らぬところで全ては終わっていたからだ。



「ぎゃはは、まったく…なあにひとりで格好つけちゃってるのかなあ、なあ人識くん?」
「そーだな。こんな裏話は戯言でしかねーだろ――情報屋ちゃん?」
「……んー、バレちゃってたかあふたりには。まあ元から誰かは気づくとは思ってたけどねえ」


そう言ってえへへ、と笑うミオ。しかしその手に持つ本来ならば食事用の器具はすべて真っ赤に染まっていた。そんなミオを人識と出夢は屋根の上からただ見下ろしていた。ふたりともその手を染めた相手は誰だ、なんてことに興味はなかった。


「だけど綱吉くんとかおねーさんには気づかせる気はなかっただろ?」
「うん、そりゃもちろん。そんなことになったら本末転倒だよう。こうやって安心して眠れるベッドを飛び出して、いい子の就寝時間を過ぎてる意味がないなあ」
「そりゃそーだ。んで?あの日は出夢に依頼したとかいうなんたらファミリーとやらに行ったってか?」
「あり、そこまでバレてた?」
「なめんなよミオちゃん。あんたのじゃない血の匂いがプンプンしてたぜ。とはいえ返り血とかじゃなくて移り香っぽいからな。「一般人」ないろはちゃんとツナと獄寺あたりは無理だったろうけど」
「それに入り口の小細工、建物自体の大きさを変えて僕たち見せるなんてね、そんな芸当はここいらでおまえぐらいしかいまはできないって僕は知ってんだぜ?」
「うーん……ぼくとしたことが。みんなを嘗めすぎてたかなあ…入り口はともかく、ファブリーズだけじゃあダメかあ」


失敗失敗、やっちゃったよう。抜かるなんてらしくない返り血はなかったから油断した。それとも平和に馴れちゃったのかなーと本気で悩む姿にふたりは呆れている。ファブリーズで消そうとしたのかよ、せめてプラスで84とか。なんてこちらも的外れなことを考えていた。


「ぎゃはっ僕はbanも悪くないと思うぜー? ――もしかして今回いなかったのってそのためなのかなあ?」
「……半分ってとこかな。もう半分は違う用事、ボンゴレからの依頼も嘘じゃないし。ま、存在を潰された名もなきファミリーが逆ギレしてまた刺客を送り出そうとしてたから、こっちもそれをボンゴレにリークした。それにちょっとついてっただけ。直接手は出してないよう。正当防衛、まあ悪くないっしょ?」
「かはは、過剰防衛もいーとこだけどな」
「えーそれぐらいで丁度いいじゃん」
「零崎かっつーの。あの赤色たちが並盛にきたのもミオちゃんの依頼か?」
「それも半分かなあ。出夢くんたちが並盛から動き出さないようにしてくださいっては濁して依頼したけど、いろはちゃんたちに会いにきたのも本当。ぼくの目的は知らないはず。――潤さんならわかってたと思うけどねえ…」
「それで見逃すなんて珍しいな、最強が」
「だって潤さんは身内に甘いもん。ぼくにも……いろはちゃんにも、リボーンにも。あと君たちにもねえ。他の奴らからみんなが殺されちゃうのはアウトだよ。しかもマフィアの掟にそってしかぼくは行動してないよう。それにぼくはつけ込んだの」
「でも――そいつらをどうにかしてくれって依頼してたらあの最強は、もっと円満解決してただろーな、ぎゃは。てかそう期待してたと思うね、僕は」
「甘いけど厳しいってか?だけどあえてそう言わずにミオちゃんに行かせたんだからよ」
「――うん、そうだねえ。ぼくもまだまだ最強には及ばないってね」


トンっと軽くジャンプして塀の上に最高はあがる。そもそも勝負の土俵が違うけれど、ぼくは強さなんて持ってないけれど強さが時々羨ましいなあ、なんて。天才少女は思う。


「それでどーすんだミオちゃん?まだこのまま殺し続けんのかよ?そのうちボンゴレとやらにもバレるんじゃねえの?」
「まあ…ね。ボンゴレ十代目とその家族をこうして狙うのはあとをたたないよう。もちろん友達だって狙われる――いろはちゃんなんていちばん危ないねえ、戦闘スキルも殺人スキルも持ってないんだから。かといって、ボンゴレが配置した護衛の人たちをすり抜ける人間がときどきいるんだもの……やるしか、ないじゃないか」
「へえ……で、ところでミオ。僕と人識はいま目撃者だな?」
「……うん」
「このまま僕たちは綱吉くんたちに報告することもできるぜぇ?「アンタの妹は綱吉くんのために夜な夜な頑張っちゃってます!」ってねえ」
「ぼくを脅すのかー」
「って棒読みかよ!!…ってことでまあオレらの目的、わかってんだろ。――交ぜろよ、それ」
「脅迫者から一転共犯者だぜ?いいだろーぎゃはは!」
「はあ……まあぼくとしては心強いし構わないんだけどねえ。てか全部やってほしいぐらい。そしたらつーくんのあったかいベッドで一緒に眠れるもの。……ただし、くれぐれもバレないように!」
「わかってるわかってる」
「ん、おっけ。じゃあぼくたち三人同盟……とはちょっと違うね。平和を守るヒーローとして仲間になろっか」
「僕は仮面つけたライダーじゃねーと認めないからよ」
「傑作だろそれ、いろんな意味でな」
「ぼくが司令官だねえ。情報教えるから、あとは任せるよう。そしたら二人組の女の子でもいけるよねえ。裏で並盛の平和を守りますって!」


――こうして表で風紀委員が守る平和を裏では《二週目》という存在たちが守るという事実がうまれた。餅は餅屋、裏のことは裏の世界で生きた彼らに、そしてやはり裏の人間は裏に関わって生きていくことが義務付けられてしまった。一般人のように、それぞれが守りたいモノを守って。ときにはその人間離れした力を尽くして。そこには首謀者と加害者しかいない、そしていまこの場にいる三人もけっして加害者であった。もしも被害者をあえてつくるとしたら、それはいまこうして殺された名もない名脇役だろうし、すでにみなのなかから名前が消されたあるファミリーなんだろう。
井伊いろはに、その周りに手を出した。だけどそれは無意識に無為式に組み換えられて「なるようにならない」つまり《最悪》な結果を生み出した。いま、《人類最強》が並盛の少年少女たちに出した任務はコンプリートされた。しかし《情報屋》《殺人鬼》《殺し屋》の三人にとって日常を守るためにまた赤色に染まる任務ははじまったばかりだった。



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