――そのとき。


「ぎゃはっ…ぎゃはははははは!!零崎曲識のおにーさんだっけえ?なんでいるか知らないけどそれはいいやあ……ぎゃははいいね、あんたの使う技は正直言って呪い名みたいで嫌いだけど、こうして僕と渡り合ってることは評価するよ」
「――うん、悪くない。僕の音を人識から聞いたのかどうか、まあ元から知っていたにせよ、抗える人間なんて見たことがなかったから、とても楽しい。僕からも評価しよう匂宮出夢。おまえはとても悪くない」
「悪くない?そんな評価僕には合わないだろ、もっとましな評価にしようぜぇええ!ぎゃはははっ!」
「残念だけど、僕が心から「いい」というのは彼女ただひとりだ」
「あっそーう。こんなにカッコカワイイ僕よりもいい女なんて、ほーんの少ししか思い浮かばないけどさっ とりあえず、早くつーづーき、やろうぜ?ぐっちゃぐちゃにしてこの《人喰い》の出夢が食べてやるよ」
「続き?もちろんいまもなお続いているさ。目の前に《呼吸》できる対象が、人間がいるというのに《零崎》ができないのはとても辛いけれど、彼女にしかられるよりはずっと《いい》」
「ぎゃはっ くんぜぇええごーくでらくんっ!ちゃああんと援護しろよっ!!」
「ああもうわかってる!が!おまえらみたいな人外バトルにオレを組み込むな!!どうせならUMA連れてこい!」
「えー。だって意外とごくっちったら相手に対処できてるし?まあ精々死なないように頑張れ!ぎゃははははは!」

音楽家らしくメロディーを奏でる《殺人鬼》と人喰いらしくあたりを食い散らかす《殺し屋》。未来の彼ならばまだしもいまはまだ彼らに完璧に対抗する術をもたない少年は、ただ体を操られて仲間の邪魔にならないように努めている。もう少し、もう少しで隙ができる。そのときまでオレの武器は役立たない。さあはやくその隙をオレにくれよ匂宮、あいつを助けにいきたいんだろ。オレもだからよ。

――殺し屋アンドマフィア連合VS殺人鬼。
いまだに決着つかず。












「く、るりくる、りまわり、まわり。さあさよってらっしゃいみてらっしゃい。戯言遣いの女の子、その女の子と周囲がまた少しずつ変わってしまうんだろう。――えへへ、ちょっぴり楽しみ!だけど願わくば、幸せだといいねえ…」



空港から降り立ち、生まれ育った見慣れた町の見知らぬ人々の間をすり抜けて少女はその場所に急いだ。そこにあったのは期待と不安と、ちょっぴりの好奇心。そして幸せを願った心だけ。前回も今回もあなたはいろんなものをくれますね、だからぼくはせめてそれを少しずつ返していくんです。たとえなんの価値がなくとも。
「くくりくくられくくる、」と呟きながら少女はさらにあゆみを早めた

――今回の事件の仕掛け人、ただいま移動中









「師匠、いろは師匠。聞こえました?姫ちゃんも同じです、潤さんは冗談のようで本気です。姫ちゃんは間違えなく本気です。今度こそ師匠を、守ります」
「姫ちゃん、」
「4人で、世界をまわって請負人とか楽しそうじゃないですか?姫ちゃんはヨーロッパとか、師匠と行ってみたいですよ」
「……うん」
「ずっとずーっと一緒にいます、それって幸せなことじゃないですか?だって師匠は姫ちゃんみたいな、いまの姫ちゃんみたいな純真無垢な女の子、好きでしょう?」
「うん、そうだね」
「だから問題ないですよ。悪い虫も裏の住人も師匠が望むなら、姫ちゃんはその意図を切ってしまいます。だって姫ちゃんの知っている師匠は傍観者でありたいひねくれ者で皮肉屋です。そんな面倒な存在嫌いだったでしょう?」
「うん、そうだよ。……だけど、そんな面倒も、抱え込むのも楽しいかもしれないっていまは知っているんだ」
「面倒なのに?」
「うんなのに。昔はさ、こんな風には考えなかった、あいつともみんなとも《人間関係》はもっと違うように築いてた。だけどいまのぼくは《一周目》がどうであれ《井伊いろは》なんだって。そしてみんな――姫ちゃんを含んだみんな違うんだって、どっか違うんだってぼくは思うんだ。みんな変わらずにはいられない、それがこの《世界》みたいなんだ。そんなね、並盛がけっこう気に入ってるみたい。だから、それがどんなに魅力的なお誘いでもぼくは行けないかな。だけど……ありがとう」
「……――うん、そっか。えへへ、姫ちゃんの知ってる師匠は、そうは言わない。もっと保身を大切にするんだって思ってましたそしてそんな師匠が好きだったけど、いまの「いろはちゃん」も悪くない…ってボルトキープさんの口癖が移っちゃったじゃないですか、じゃなくて好きになりました」
「…ありがとう、ぼくも姫ちゃんのこと好きかな。ていうかもっと前のとき好きって言ってくれてたら「ぼく」は嬉しかっただろうに!」
「へーん!師匠を喜ばせるなんて鬼に金棒(きんぼう)、最強クラスの装備が必要になります!」
「かなぼうね、金棒………てか意味違う」
「あってなくはないですよ!…ってうわ、あの殺人鬼さん恥ずかしいこと言っちゃってますねえ…あ、真っ赤」
「………!」
「師匠は愛されちゃってますねー姫ちゃんも負けないけど」
「う、うわあああ!止めにい…ぐえっ!!」
「ダメですよ!これからが楽しいんですから!!」


かつて切れてしまった意図を紡ぎ直すかのように、かつての師匠と弟子は甘い睦言を交わし避わす。ひねくれ者で皮肉屋な戯言遣いだった女の子は、素直に「ありがとう」と言えた。これはきっと、あのときから成長した、違ったしるしだと弟子は思い、ますます想った。そんなあなたが好きになりました。えへへ。

――戯言遣いと危険信号、別室で会話継続中




「おねえさんたち大丈夫かな?」
「まあよ、ツナも獄寺も零崎も強いから安心しろって」
「やまもとくん!あたしの兄貴もすっごく強いんだねっ抜かしちゃだめ!」
「お?そりゃすまねえのな!――じゃあ尚更平気だろ、オレたちはとりあえずこっちを治めないとなー」
「そうだよそこのふたり。しゃべってる暇があったら手を動かして」
「はーい!」
「あいよっと」
「あ、でも……もう終わったんだね!」
「え………?本当だ、きみすごいね」
「えへへ「調査」とかデスクワークとかはあたしすっごい得意なんだ!任せてほしいんだねっ」
「……ふーん、じゃあこれも…」
「うぎゃっ!?雲雀のおにいさんは狐さんとかおねえさんよりも鬼なんだね!!」
「ふふ、嘘だよ。ちょっと休憩すればいい。そっちのお菓子とか食べていいから」
「! ありがとう!」
「………へえ、井伊といい理澄といい、意外と女の子に優しいのな、雲雀」
「だって違反もなにもしていないだろ?素直な子とか小さい子は嫌いじゃないし」
「まあそういうことにしとくぜ!さあて、オレは茶でもいれっかなー」


名探偵は《人喰い》の片割れらしく、クッキーをおいしそうにほおばった。それを見て笑った雨と雲、不安がないわけじゃないけれどそれよりあの子ならみんななら大丈夫だっていう絶対的な信頼が信用があったからこうやって《弱さ》の少女をただ保護した。連れて行ってもらえなかったのは悔しい、だけどあとを任されたという誇りをもって。だけどやっぱりなんでもなかったよ、ただ消えてみたかっただけなんていう戯言を直接聞きたかったから、早く帰っておいで「おかえり」っていうからとふたりは思う。互いに同じことを考えているなんてのは、知ってても言わぬが花。


――雲と雨と名探偵
意外とまったり交流中



みながみな、それぞれの思いを抱えて行動中











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