その日、ぼくは珍しくひとりで下校しようとしていた。《人間失格》は雲雀さんに呼ばれているらしいし、匂宮兄妹は《仕事》らしい。もちろん天才少女はいま不在だ。最近はひとしきくんとかミオちゃんとか、はたまた綱吉くんたちだったり誰かしらと一緒に帰っていたからなんだか違和感がある。――夏休み前は、逆にこれが普通だったのに。そう考えると、いまのこの日常がとてもおかしく思えてそっと笑ってしまった。おっとこれじゃあなんにもないところで笑ってる可笑しな奴になっちゃうな。明日は久しぶりに京子ちゃんたちを誘ってみようかな。彼女たちみたいな《普通》の女の子とお話するのも、楽しいだろう。
とりあえず今日は帰ろう、と急いで校門を出ようとしたが思わず立ち止まった。向こうからくる車、それは懐かしさを感じるのに十分だったからだ――赤のコブラ。最強のあの人らしい、立派な車だよね。まあまさか《彼女》ではないと思うけど、誰かの迎えだろうか?校門の前、ぼくの進む方向のちょっと先に止まった車のなかにいる人は光の反射で見えない。だったらそいつにぼくは同情したい、いくらなんでもこんな車に迎えにこられたら噂どころの話じゃなくなるだろうからさ。そんなことを思いながら、校門から出て車の横を通り過ぎようとする。そっちに向かうのはぼくしかいなくて、だからかその不幸はぼくに降りかかったみたいだ。助手席の扉が開いて、なかから紫がかった綺麗な波打つ黒髪の……多分男性が降りてきて、ぼくの前に立つ。着ているのは白い燕尾服っていうのか?なかなかに身長が高い、ぼくはけっこう見上げないといけないじゃないか。

「――すまないが、道を尋ねていいだろうか?」
「あ、はい。どこですか?」

綺麗な声だな、とただ思った。落ち着いたその声は彼の外見にとてもよく似合っている。なんだ道に迷っただけか、ぼくの頼りない記憶力でも説明できる場所だったらいいんだけどね。


「説明しずらいのだが――《殺人鬼》がいる場所と言えばわかるか?」
「……え?」
「? なんだじゅん?…この少女が?――ああいや、すまない必要ないらしい。なるほどお前がそうなのか。偶然に出会うというのも――悪くない」
「っ!?」


からだが、動かなかった。目の前の男性が呟いたときから体の指揮権はぼくにはもうない。そして開く後部座席のドア、そこから《糸》よりはもっと太い、そう紐だ。赤い紐がぼくの体に巻きついて――――ぼくは誘拐された。











「やっぱりいねーのか、いろはちゃんは」
「うん……昨日から、帰ってないんだもんね?」


いまオレたちは、屋上にいる。オレたち三人とひとしきくんと出夢くんと理澄ちゃんそれにリボーンが輪になって集まっていた、みんな顔が深刻だ。だって当たり前だろ?昨日学校で別れたいろはちゃんが、なんにも残さないでいなくなってしまったから。今朝ひとしきくんがいろはちゃんを迎えにいったところ露見したみたいで………


「――マフィア関係、なのかな?」
「さあな、まだわかんねーがその可能性はあるぞ」
「! や、やっぱり!うわあぁああ!どうしようオレっ友だちを巻き込んで最低だ……!」
「落ち着け、ツナ。それ以上騒ぐと撃つぞ」


……リボーンは本気の目だ。オレは思わず従って黙ってしまった。ごめんねいろはちゃん、弱いオレでさ…。


「まだ情報がねえからな、ただの誘拐か巻き込まれたかなんとも言うことはできねえ。だからまず普通の誘拐と考えて情報を集めるぞ」
「任せてほしいんだねっ!あたしは《名探偵》だもん、《調査(フィールドワーク)》は得意だよっ」
「う、うん……」
「あとあいつにも頼んだぞ」


リボーンが言うと共に、屋上の扉が開かれる。そこにいたのは、並盛の風紀委員長、雲雀さんだった。


「…話は赤ん坊から聞いたよ。――あの子は僕の妹みたいなものだからね、手伝ってあげる」
「! あ、ありがとうございますっ」
「なんで君がお礼言うのかは知らないけど、まあいいか」
「だ、だって……」
「ツナ、お前もいろはを探すんだな?お前がそうするっていうなら、ファミリーはみんな協力するぞ」
「リボーン…」


いろはちゃんは、リング争奪戦のときに本当になんの関係もなかったのに参加してくれたんだよ。オレとミオのためって、そう言ってくれた。だからさ、今回はオレがいろはちゃんを助ける番なんじゃないかなって。


「いろはちゃんを見つけよう。それでもし、なにかに巻き込まれているんだとしたら、絶対に助け出そう!」
「はいっもちろんです十代目!あいつは……無傷で帰ってこさせましょう!」
「おーみんなやる気なのな!オレもだけど。やっぱり友達のピンチに立ち上がるのがダチってもんだろー?」
「今回は僕も使ってくれて構わないぜ?僕らふたりいれば《殺戮》も《調査》もお手のものだろ、ツナヨシくん」
「殺戮とか物騒なのはいらないけれど!!ありがとよろしくね、出夢くんっ」
「ぎゃははっなんたっておねーさんのためだし……ツナヨシくんが、おねーさんに友達って思われてる意味なんとなくわかっちゃうしねー!」


うりゃっと小突かれたけど、出夢くんの《小突く》ってすごい威力あるんだからね、気づいてよ。オレ吹っ飛んだんだから!!頭をさすりながら起き上がって見渡せば、「てめぇっ!」と出夢くんに突っかかる獄寺くん。山本笑ってないで、止めて。そういえばいつの間にか消えてる雲雀さん。さっそく風紀委員を使って探しにいってくれてるのかと思うと、やっぱり嬉しい。オレたちも頑張らないとな。………そういえば、ひとしきくんはいろはちゃんのためなら真っ先に動いて、暴走とかしそうなのにまったくしゃべってないや。見つめれば、ぎゅっと拳を握りしめている姿。…―いろはちゃんのこと本当に大切なんだって、なんかすごく思った。


「ひとしきくん、」
「あ、なんだツナ、か……かはは」
「えっと大丈夫…?」
「ああ――いやうん、オレは、オレたちは《鏡》だからさ。もっと早く気づけたんじゃねーかとか考えたら、やっぱ悔しいよな。だけど、それを感じないってことは、まだ無事なのかもって安心してるしよ」
「大丈夫だよ。オレだって、直感があるのに情けないや。だけどきっといろはちゃんは無事だって確信できるから」
「ん……そっか。そーいや超直感ってのがあるんだっけ?――じゃあオレはツナの直感を信じるからさ」
「うん、ありがとう…」
「こっちこそ、格好わりーとこごめんな、かはは」


《鏡》なんだとふたりはよく言う。それはオレの知らない《前世》からのつながりであるかもしれないし、そうでないかもしれないけれど。オレにはこれ以上はいまは声をかけれないよ。
はあ、とため息をひとつつく。いろはちゃんったら変な人たちに好かれる才能でもあるんじゃないかな?その変人のひとり――オレの妹がいれば、きっといろはちゃんの居場所ぐらい一発だと思うのに。お前一体いまどこでなにしてるんだよ、ちょうどいいときにいないし連絡がつかないんだからさ。まったく連絡とれるようにしてくれないなんて、寂しいの知ってるだろ。
















「うん、そーだよ。いま一緒にいるのさ。――あのお姉さんたちが言ってたのはやっぱり君だったんだねえ。なんとなく予測してたけど――あああのひとはそんなお姉さんたちの発言すら覚えていないと思うなあ。――それでどうするの?もしもきみが望むならいますぐ会わせてあげるんだけど。ぼくの力、全部使って。なんの障害もなくさ。まあ相変わらずの天才ポイポイみたいだよー!見ててすっごく面白いのっしかもまたひとり……ううんさんにんかな、《おはなし》のうえに上がってもらったし。えへへ、たのしそう?そりゃあいまのぼくには大切なものがいっぱいできたからね、あのひとも含めて。だからそこにきみも来てくれたらすっごく楽しいと思うけどなあ――どうするの?×××××――ああそう、じゃあまたぼくは会いに来るから、うん」











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