「……ねえ、リボちゃん」
「ん、なんだミオ」
「《哀川潤》って知ってる?《人類最強の請負人》とか《死色の真紅》とか」
「んなもん当たり前だぞ。特に《人類最強》は裏の奴なら誰でも知ってるような名前だ、しかもボンゴレの9代目やおまえの父親とも仲良しだぞ」
「はあー……いずくんは?」
「僕にはちゃあんと優秀な《妹》がついているからね、それでなくても《人類最強》の話はよく聞くよ。僕は逆にミオが知らなかったのが不思議だけど」
「だよねえー、いかにぼくが今までなんにもしなかったかがこれでわかるってもんだよね!ああもう、ぼくが後手にまわるなんてくやしいよ、こんなに近くに萌えがあったなんてっ………まあ、これからまた一手かなあ?にひ」



と、ぼくたちが去ったあとの会話。その頃ぼくたち三人は応接室で、雲雀風紀委員長の前にひとしきくん、ぼく、獄寺くんの順に座っていた。一応ぼくはなんの問題もおこしたことがないっていう優等生だ、鋭い視線の彼の前にこうしているのははじめてだ。なにも話がついていないうちから暴れ出してしまったら台無しだから、応接室に入る前にふたりには釘をさしておいた。



「それで?君たちが屋上での騒ぎの責任をとってくれるのかい?」
「……バレてましたか?」
「ここは僕の学校だよ」


「当たり前」と言って風紀委員長は、ぼくたちを見極めるようにじっと見る。



「……屋上の修理は、ボンゴレが受け持つと言っていました。あと騒ぎを起こした人間も反省しています。これからは静かにしているでしょう」
「ふうん…確証は?」
「それは――ぼくが起こさせませんから。幸いボンゴレのみんなも油断しないですし、《殺し屋》さんの親友だとか腕っぷしは強い鏡の裏側もいます、なにかあっても取り押さえることぐらいはできますよ?」
「…………」


自惚れじゃなくふたりなら協力してくれるだろう。ひとしきくんを見ると、苦い顔をしているけれど「まーいろはちゃんが言うなら頑張るわ」と言っている。獄寺くんは「当たり前だ、」と呟いていた。


「……茶髪に銀髪じゃらじゃらしたシルバーアクセ、明らかな染色した髪とピアスにイレズミ、こんなに校則違反してる君たちがわざわざここにくるなんてその勇気は認めてあげるよ。あの赤ん坊の関係者なんだろ、なら簡単だ。またなにかあったら君たちがおさめてくれればいい」
「一応、地毛なんですけどね…」
「あーオレは否定できねーな」
「ちっ…」
「それに井伊いろはだっけ?君はあの戦いでの立ち位置が気になったし、零崎人識、君って強いだろ。僕強い人間は嫌いじゃないんだ」
「かはは、オレと戦うのは止めといたほうがいいんじゃねーの?委員長さん。オレはあんたを《殺さない》自信なんてねーよ?」
「ちょっとそれどういうこと?あんまりナメてると――」
「あー違う違う。オレは《そういうもん》なんだよ。あんたが強いとか弱いとか関係ない、殺すってのが当たり前だからさ」
「………ひとしきくん」
「わかってんよいろはちゃん。《零崎》はしねーって」


それでもついうっかり!ってあるじゃん?とかははと笑う彼に頭を抱えたくなった。これは本当だ、彼は本気で《ついうっかり》殺してしまう《殺人鬼》なんだから。


「意味わからないけど、いいよ。それでもいいから今度戦ろうか?」
「まっいいぜ。かかってきな」
「はあ……ぼくのまわりはどうしてか好戦的なんだからさ。――とりあえずそういうことです。屋上でのこと、伝えたかっただけなので失礼します。風紀委員長」
「ねえ君、それってわざと?」
「――は?」
「風紀委員長なんてわざわざ呼ぶ人はじめて見たよ。だから」
「それは……だってあなた、ぼくに名乗っていないじゃないですか」
「でも僕の名前ぐらい知ってるでしょ?」
「それでも……それがぼくのスタンスなんですよ」
「ふうん…ま、いいや。僕は雲雀恭弥、並盛中の風紀委員長さ」
「井伊、いろはです――雲雀さん」
「知ってるよ」


ふふ、と笑って雲雀さんは立ち上がった。そしてなにやら応接室についているキッチンのような場所に向かいカチャカチャとはじめてしまった。……この応接室なんだか居心地が良すぎると思うのは戯言だろうか、いやちがう。思わず反語を使ってしまうぐらいに優遇されている。あの骨董アパートのぼくの部屋なんかよりずっと住みやすいだろう。
そういえば、ずっと空気みたいに静かだった獄寺くんはどうしたんだろう(ここで注釈を加えておくとすると、彼は元戯言遣いの女の子がすぐ隣にいることに、内心ドキドキでそれどころではなかったというのは、本人の女の子以外はたやすく気づけるところだろう。それは女の子が戯言遣いであったときからの鈍さなので仕方がない。目の前にいた、なんの事情も知らない風紀委員長でさえ「え、女の子慣れしてそうなこいつが?かなり意外だよね」と思っているぐらいにわかりやすい。あえて誰も突っ込まないのはライバルを助けたくないのと空気を読んでいるの、である)
……いまなにか長い注釈かなにかが入ったような、そうじゃないような……戯言か。
そんなことを考えているうちに雲雀さんは戻ってきて、ぼくたちの前に紅茶とクッキーを並べた。


「君みたいな面白い子は好きだよ。それが地毛なら、違反もなにもしてないし。あとの奴にはこの子を連れてきてくれたオマケ」
「あ、ありがとうございます…?」
「! これあれじゃねーか、東京駅とかで売られてるバナナ味の安直なネーミングのあれ!!」
「やけに詳しいな、おいっ!」
「かはは、これぐらい常識だかんな、獄寺。いっただきー…あーうま」
「胃袋キャラっていうかもう甘党か……」
「……はっ!でもいろはちゃんは渡さねーからな!!なあ獄寺」
「そこでオレにふるのかよ!で、でもまあ……ヒバリには」
「なにか勘違いしてるみたいだけど、僕はこの子のこと、そうだな妹みたいにしか思ってないからね」
「ぼくが妹、ですか」
「うんそう。妹なんていないからわからないけど、君みたいなのだったらすごくいいと思う」
「ぼくみたいなのがいいかはわかりませんが……そうですね、いたら妹は、かわいいですよ」
「いるのかい?」


目を閉じて、《あの頃》を思い出す。妹がいたことなんて、ずっとずっと知らなかったけど。きっと一緒に過ごしていたら、まあ悪くない生活だったんじゃないかななんて、いまの綱吉くんとミオちゃんやあの頃の出夢くんと理澄ちゃん――そして直さんと友を見てると思う。
ひとしきくんも妹がいたんだっけ?この前あのときの話を聞いたな。


「――いいえ。でもきっと」
「そう……じゃあなおさら君が妹だったらいいのに」
「有り難くその言葉頂いておきます。お兄ちゃんとでも呼びましょうか?」
「ワオ、意外とノリがいいじゃないか、いろは」
「うわっこれが兄貴の言ってた妹萌えってやつか?!お兄さん妹さんをオレにください!」
「まだダメ。僕の妹に手を出したら咬み殺すから。僕を倒してからにして」
「(……あの殺し屋は、アウトか。背後から狙えば…いや)」


今度はぼくの妹として生まれなかった君へ。
ぼくは兄らしくなかったはずだ。だけど願う。いまこそ、今度こそ、お前らしく生き抜いてほしいと思うのは戯言、かな?











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