さて、ここでひとつ悪いぼくの記憶力に鞭を打って《せかい》のことを思い出してみよう。
ぼくが住んでいた《おもてせかい》と3つに分かれる《裏世界》――政治力のせかい、財力のせかい、そして暴力のせかい。そこは「しーちゃん」と呼ばれ《チーム》の一員だった女の子が生き抜いて、また傑作なぼくの鏡の向こう側が所属した世界だった。そのなかでも《殺し屋》匂宮雑技団、《暗殺者》闇口衆、《殺人鬼》零崎一賊、《始末番》薄野武隊、《虐殺師》墓森司令塔、《掃除人》天吹正視庁、そして《死神》石凪調査室。「殺し名七名」とよばれる存在とそれに対極する「呪い名六名」は、それこそ桁違いのせかいで本来なら、ぼくたち表世界はなにひとつかかわることはないはずだった。ぼくが、もしも玖渚友と出会わなければきっとそれこそ《縁》なんて結ばれなかっただろう、人びと。


「ぎゃははははははっ!!」


そしてたったいま、ぼくの目の前屋上のフェンスの上で笑う彼女、いや少年は、ぼくの記憶があっているのだとしたら、それは最悪なことに「この世界」でも間違えることない《殺し屋》――殺し名序列第一位《匂宮雑技団》のひとり、いやふたり。《殺戮(キリングフィールド)》を担当としていた《人喰い(マンイーター)》の、匂宮出夢だった。ミオちゃんが投げたフォークは出夢くんの足元に刺さっていた。ぼくはきっと目を見開いている。ああ。ぼくに最後に姿を見せたときのように、素肌の上に革ジャンというスタイルででも髪ははじめのときのように長く、メガネを頭のうえにかけていた。「まじかよ…」と隣で呟く《殺人鬼》にぼくも同じように呟きたくなった。まあ戯言だけど。


《殺し屋》は、出夢くんはニィイと笑って――屋上のフェンスから飛び降りてそのままこちらに突っ込んでくる。ひとしきくんがぼくをひっぱってフェンスのほうへ避難させる。ありがとうと呟くけれど、ひとしきくんは苦い顔のままで一言「おー」と返してナイフを取り出した。ミオちゃんもぼくの隣に立って銀食器を多数ぷらぷらと持っている。響く銃声、リボーンくんが綱吉くんに死ぬ気弾とやらを撃ったらしい。獄寺くんと山本くんも避けたけれど、山本くんは武器がなくて獄寺くんは綱吉くんを巻き込んでしまうと判断してか手を出せないようだ。綱吉くんが素早く出夢くんの攻撃を避ける。だけどここで出夢くんはその勢いのまま手を構える、あれは――!ぼくが思わず綱吉くんに向かって叫ぼうとするよりも早く、隣のミオちゃんが動いた。くるっとフォークを回転させてその勢いで速さ、と綱吉くんと同じ色の炎を纏ったフォークを出夢くんと綱吉くんの間に投げつける。そのおかげで出夢くんの腕は綱吉くんから逸れて、屋上の床へと叩きつけられた。まるでなにかに《食べられた》かのようにえぐられた床、当たり前だけどみんなの表情が少し青くなった。そしてぼくの隣に残っていたひとしきくんがついで動きだし《人類最速》らしくナイフを繰り出した。出夢くんはそれを避けながらひとしきくんのほうを振り向いて――そしてとても驚いたような表情をして、笑った。くるりと軽く屋上タンクの上に跳ね上がって、こちらを見渡した。綱吉くんから炎が消える、ミオちゃんはその間に綱吉くんの隣に立ち、ぼくのそばに誰もいないことに気づいたのか獄寺くんがこちらに駆け寄って来てくれた。


「ぎゃははっ――おいおい、なんの冗談かなあ?なんでこんなところに零崎人識とミオがいるんだよ?」
「それはこっちの台詞だぜ、出夢。お前がこの世界にいてまた殺し屋なんてやってるとは、傑作だろ」
「傑作、かあ。ぎゃはっ。えーっと、そっちのかわいい顔した男の子が、サワダツナヨシくんかなあ?――とりあえず挨拶しておこうか。僕の名前は匂宮出夢。あんたを殺しにきた《殺し屋》だ」
「ほ、本当に来たぁああ!!?」
「ん?本当に?…なあんだ、知ってたんだ。ま、ミオがいるならそれも当たり前か?僕にはかんけーないことだけど」

出夢くんはそう言ってニィイと笑う。どうやらこちらは見たけれど、ぼくが「ぼく」だと気づいてはいないらしくてまったく触れてこない。


「残念だけど関係あるのかなあ。はろーお久しぶりだねえいず。だけど久しぶりついでにぼくはいずにつーくんを殺されるわけにはいかないよう、たったひとりの大切なお兄ちゃんだもん」
「――へえ?サワダツナヨシが、ミオの?そういや顔そっくりじゃん」
「だけどぼくと違って格好いいでしょ?いずも相変わらず格好いいけどねー!」


えへへと笑って会話するミオちゃんと出夢くん。友だちだったといつか彼女に聞いたことがある、だけどいまふたりは互いに武器を構えたままだ。プロのプレイヤーらしく警戒を解かない。たとえ友だちだったとしてもかわらない。――それがとても悲しいことだとしても。


さてここが今回の、ぼくの出番だろう。













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