背中を守りあって戦うおにいさんたちに、そこはかとない萌えを感じて、邪魔はいけないと知りつつジャックランタンに突っ込んでもらった。


「助けにきました、おにいさん」


なんともシンプルなセリフだって苦笑しながらも手は休めない。向かってくる弓矢には白い子ライオンに活躍してもらって、そんな弓を放ったあとの鬼たちはナイフを突き刺して焼き払う。
周りに人間があんまりいなくてよかった。まだ、人間を躊躇なく焼き払うには覚悟が足りてないから。ぎゅ、とナイフのひとつを握りこんで、社のほうを指す。


「おまえは、何者だ?」
「とりあえずは遠呂智の復活を阻止したいとある軍に所属している人間で、おにいさんたちを助けにきました、とだけ言っておきますね。…さあ、護衛します。はやく神さまのものへ行ってください。そちらのおにいさんじゃなければ、ただしく解放できないんでしょう?」
「……そうだな、話は後だ。恩に切る」


髪が青白くて、ヴィジュアル系のおにいさんのことを待っているんだって、伝わってきた。これも、平行世界の白龍とリンクしているからかぼくの直感からか。厳島という土地にいちばん近く住んでいたのはおにいさんのようだから。
社への道はとりあえず切り開いたから、ヴィジュアル系のおにいさんと紫色の、まるで鴉みたいな格好をしたおにいさんが進むのを待ってから、その後を追おうとする鬼たちに立ちふさがる。まだハルヒからは降りない。
さっき遠慮なく鬼の大半、とくに大きい鬼を消し炭にしたのを見たからか鬼たちは警戒しているようだ。


「…なんだ、この餓鬼は」
「さあ、なんなんだろうね。とりあえず、殺されたくなければ下がったほうがいいよう」
「ふざけているのか。戦場においてそんなことをする間抜けなど……」
「うん、そうだよね。知ってるよう、だからごめんね。…もう終わってるんだ」
「………!あ、あぁああああ!!?」


ぱちんと指を鳴らせば、その途端に燃え上がる。とっくの昔に、君たちにフォークはさしおわってたんだよう。それこそ最初の鬼が燃えたときには。
本当に、あたり一面と呼べるくらいの鬼を焼き尽くしたから、さすがに疲れた。ジャックランタンとクーピーを残して、他は手元の三本だけに戻してハルヒのうえでだれる。空気よめよう、と言われても休めるときにくらい休ませてよ。ここまでして、負けましたとかシャレにならないからね。
ハルヒにおにいさんたちを追って、と指示をだしてまただれる……けれど、変な気配を社とは別の、向こうにかすかに見える建物のほうから感じて嫌な気持ちになった。
直感が訴える。あそこは嫌だと危険だと。それこそ最近、ぼくの周りで起きていた戦なんて子どもだましだと思えるような。あとでおにいさんたちにあそこにはなにがいるのか聞いてみよう。
……………それにしても。


「やだなあ」
《どーした?》
「声が、うるさいんだよう。悲鳴がね、もろに聞こえてきて、最悪なの」
《……普段だって似たようなもんだろ》
「うーん……なんていえば良いんだろう、気分が悪いから?なんか嫌な気に当てられちゃった」


ああなんでぼくは音楽プレイヤーでもなんでも持ってこなかったんだろう。それがあればちょっとはましになるのに。
きっといま髪の毛は真っ白いんだろうな。気分の高揚感とか、変な感じだとかは最初の戦に近いもの。
ハルヒの足では地面しか駆けれないとしても人の足に追いつくなんて簡単で、社に向かう坂を駆け上がるおにいさんたちを捕まえた。



「おにいさんたち、だいじょーぶですか?」
「………随分と早いんだな」
「まあ、ある意味ぼくの技って反則技に近いので。…疲れてますねー」
「ふん、馬もとうに捨ててしまったからな。嬢がとてもうらやましい」
「え、じゃあ貸してあげます」
「………は?」
「くく、遠慮はしないぞ?」
「おい?!元親、凄絶凄絶言ってるからついにおかしくなったか?」
「……失礼なやつだな」
「あはは!愉快なおにいさんたち!」


ハルヒによろしくねって頼んだら、嫌そうに、でも、いいよって言ってくれたために飛び降りた。ひとり乗りではすごく細身に見えるとはいえ、ぼくよりもずっと体格のいいおにいさんをふたりも乗せられないから、ハルヒは赤い気のようなものとともに身体を大きくする。後ろでおにいさんたちの感心したような声を聞きつつ、ぼくのしてほしいことを正確に読み取ったハルヒによしよしと頭を撫でるというご褒美をあげて、おにいさんたちに乗るように促した。さすがに鬼たちが集まってきた。しかも、囲まれた。これを相手に………はしたくないなあ。いくらクーピーも、ジャックランタンもいるとは言ってもねえ……そうだ!


《ミオ!》
「さきいっていいよう、すぐ追いつくから」
《でも………》
「いいから、はやく。………いけ!!」


鬼たちが動いたのと同時にハルヒを社へ出発させる。ぼくは、まだ動かない。スプーンをふたつに増やして両手に持って待ち構える。ハルヒは社のある場所へ、到着した。――きた、いまだ!
鬼たちがぼくに攻撃を当てるという瞬間に、ぼくは鬼たちの前から消えていた。正確には遥か頭上に逆さまに浮いている、スカートのなかみが見えちゃうかな。鬼たちが互いに討ち合ったのを見てからそのまま社へと、飛ぶ。飛んでハルヒたちの目の前にくるんと一回転、降り立ったその時間まではほぼ一瞬。



「やほー」
《ミオっ!な、なんで…!?》
「言ったじゃん、すぐに追いつくーって。」
《だ、だって。おれたちがいないのに……そんなすぐこれるとは思わないじゃん!》
「炎の逆噴射を使った移動だよーう。ぼくはまだ短距離しか使えないけど、お兄ちゃんたちがよく使ってたんだから、ぼくも使えるだろうと思って」


つーくんも、お兄ちゃんも簡単に使って宙に浮かんでくれていた。だったらぼくにだっておんなじこと、できるでしょう?使えなかったら、今ごろ串刺しだろうから一か八かだったんだ。だけどぼくは簡単に命をかけた勝負はしない、使える可能性のほうが高かったんだ。
話ながらも周りを見て状況を判断すれば、社のまわりに、鬼は少ない。これ以上余計なものが入ってこないよう社を囲む大きな木の柵をひとつ倒す。ハルヒからすでに降りていた鴉のほうのおにいさんは、ぼくがなにをしたいのか察したようで同じように柵をいくつも倒して、…………ぼくたちがあがってきた道へと転がした。
こちらへ上がってこようとした鬼たちはそれに巻き込まれて、下に落ちたり潰されたり。ともかくしばらくは上がってこれないだろう。
生真面目だと思ったら、意外と融通がきくおにいさんたちに笑いながらピースサインをだしたら、親指をたてて返ってきた。












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