「あ、りっくん!しょうちゃん!」
「ミオ……?」
「あらあんた寝たんじゃなかったの?」
「いくらなんでもこんな早く寝ないよう!一体誰がそんなこと言ったの」
「朱然よ。ミオと会わなかった?って聞いたら「寝たんじゃねーか?」って」
「あいつ…後でとっちめてやる…!」


ぼくはどんなのびたくんだよ。ほんとうにさっき、ぼくたち会ったばっかりじゃないか。朱然をしめるという決意を心にしっかりと刻んでふたりの手元を見ると、それぞれの武器が握られていた。


「あれ、まさかこれから鍛錬でもするの?」
「違いますよ。手入れを久しぶりにするところだったんです、最近忙しくてできませんでしたからね」
「ミオもちゃんと旅先でやるのよー!じゃないといざっていうとき大変よ!」
「え、ぼく手入れとかしたことないんだけど……」
「え………」


びっくりしすぎだよ、しょうちゃん。そもそもどう手入れしていいのか、もとの三本を手入れすればいいのか。あとでこれはツキヒにでも聞けば解決するのかな。


「……とりあえずやり方だけでも覚えたいから見ていーい?」
「い「もちろんどうぞ」……遮らないでよ陸遜…!!」
「え、なにかありますか尚香殿?」
「……もういいわよ……ま、そこに座りましょ」
「はーい」「どうせならミオもやりますか?」
「あ、うーん……」
「なにか問題があるとしてもきっとやらないよりはやったほうがいいと思いますよ」
「………じゃあ、やる」


食器だって手入れしたほうがいいよね、とさっきとは違ったことをあっさりと考えた。だ、だってなんかりっくんが言ったことってさ、本当なんだってつい思っちゃうんだもん。兄弟子だからかりっくんのオーラがそうさせるのか。
広間の隅っこで、ぼくたちは座り込む。こうやって注意してみると、けっこう手入れをしている人は少なくなかった。


「食器……だと勝手が違うかもしれませんが、まずこれを使って……こうします」


なんかポワポワしたものとかを取り出してりっくんが説明をしてくれる。しょーちゃんはその隣で「ふたつもあるから大変なのよー」なんて言いながらも素早く手慣れたように手入れをしていた。


「じゃあはいこれを使ってやってみてください」
「うん。えっと…………」


……組み立てとかなら器用なんだけど。なかなかこれは加減が難しい。コツをつかむまでが大変そうだ、なんて考えながらやっていたらぼくの手に誰かの、というかりっくんの手が重なった。そのままぼくの手ごと動かされる、きっとうまくできないぼくを見かねてなんだろうけど……近い!近いよ!振り向けばすぐそばにりっくんの顔があるから、振り向けないし。


「こうですよ、ミオ」
「う、うん…!」
「そうそう上手です」


耳元でダイレクトに声が聞こえた。ぼくは前を必死に見て誤魔化すけど、ほっぺが熱いのは誤魔化せてる?きっと目はぐるぐる回ってる!だって仕方ないじゃん、りっくんの声すごく綺麗っていうか、無駄にドキドキする。


「はい、終わりです」
「あ、ありがとう!」
「これを次からはひとりでちゃんとやるんですよ?」
「………頑張り、ます…」
「……あんたたちその雰囲気どうにかしてよ」


ああもう見てるこっちが胸やけしそうだわ!と叫ぶしょうちゃん。ってそうだったこの場にはしょうちゃんがいた。いちばん厄介な人間に見られた!と羞恥心とか色々で熱が集まった。ど、どうしてそんなに平気そうにしてるんだよ、りっくん!てか笑顔!これが2、3年の経験の差ってやつなのか。意外と遊んでたりするとか、イメージが変わるんだけど。


「まったく……普段の鉄仮面とか嘘みたいよねえ……あんた、あたしたちの前でももっとあくどい笑顔だったじゃない」
「おや、そうですか?」
「そうですか?じゃないわ。そーだったの!」
「あたしたち…って呉国のみなさん?」
「うんそーよ。あたしたちの国、今も父さまや兄様たちがいるはずよ」
「へえ……しょうちゃんの、」
「とても騒がしい人たちでしたよ。尚香殿たちは毎日がお祭り騒ぎっていうか……」
「そういう陸遜だって率先して問題起こしてたじゃないの!」
「あ、得意の火矢とか?」
「さすがミオ、よくわかりましたね」
「うん、りっくんいま、すっごくいい笑顔だったから」


そんなときはたいてい火計のこと考えてるよね?と問えば、それだけじゃないんですけどねって返される。


「まあでも……あの騒がしさはけして嫌いじゃありませんでしたね」
「あら。あたしは嫌いじゃないどころか大好きよ。だってやっぱりあそこが、あたしの守るべき国で人たちだったもの」
「そっか、そうなんだ。呉には行くのが楽しみになったよ」
「はい、ぜひどうせなら楽しんできてください」
「大丈夫、あたしたちの友達って言えば歓迎してくれるわよ!」



ふたりの言葉にまだ見ぬ呉国に思いを向けて「うん」と頷いた。









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