朱然と別れたあと、足は自然と宿営地の裏の川へ。なんとなくそこに、誰かいるなあって直感したんだよね。と、思った通りに岩に腰掛ける見知った後ろ姿があった。


「………ミオ、か…?」
「わー、声かける前なのによく分かったねー!」
「…そなたの気配は、私には優しいからな」


すぐわかる、と微笑む望ちゃんの隣に腰掛けた。例の釣り竿にしか見えない武器を、本当に釣り竿みたいに川に垂らしている。釣れるの?と聞いたら「いや」と答えて望ちゃんは釣り竿の先を川から引き上げる。と、見えた針は。


「意味ないじゃんこれ、縫い針だもん」
「それでいい。どうせ釣ったところで川に返すだけだからな」
「? そーなの?」
「ただ考えごとをしたかっただけだからな」
「ふうん、そっか。」


仙人さまの考えなんて、詳しくぼくにわかるわけもない。そこからはちょっと無言が続く。考えごとならぼく来たの邪魔だったかなあ、とか思ったけど何にも言ってこない彼の優しさに甘えよう。ちゃぽん、と時々魚が跳ねる音だけが響いた。


「……私たちの他に」
「…?」
「私たちの他にも仙人が2人ほどこちらに来ている。そのふたりの力は本物だ。遠慮せずに頼るといい」
「えっと、…そのふたりの名前は?」
「女禍と伏義と言う」
「女禍さんと伏義さん、ね。わかった、ありがとう」


女禍と伏義と太公望か。ほんとうに封神演義みたいだ。望ちゃんがわざわざ頼っていいなんて言うんだから、きっとすごい仙人さまなんだろう。なんて考えてたら、笑い声が隣から聞こえる。犯人は考えるまでもなくひとりだ。


「……どーしたの?」
「くく、いやなに…ミオを私が拾ったときにはあんなに泣いていたのに、いまはこうして重要な伝令までつとめるようになるとは」
「 や、やだよ!そんな恥ずかしい記憶は奥底にしまってよう!てか、忘れて!」
「いや無理だな、あれはいつまでも私の記憶の表面に刻まれている」
「望ちゃんの馬鹿っ!このドS!」
「ど…す…?ほめ言葉か?」
「ある意味ではね!」


でもぼくはけっしてMじゃないから喜ばないんだから!Mなのは、隣町の南国果実だけで十分だ!


「しかし、よく成長したとは思ってるから。ミオならうまくやって帰ってくると信じているさ」
「望ちゃん………」
「これはさっき笑ったお詫びと、無事に帰ってくるようにと御守りだ」


望ちゃんの手が光ったと思ったら、そこにはしろとあおでできた、花をかたどった髪飾りがあった。花びらには細かく文様がついていて。


「………きれい…。これ、なんの花?」
「これは、仙界のとある花をかたどったものだ。さっき言ったふたりに会うときも役立つだろうから、つけていけ」
「う、うん……ありがと」
「――やはり、思った通りだ。なぜかはわからないが、そなたには青色がよく似合う」


ふわりと髪に花を付けられる。きっとぼくのいまの顔は変に違いない。どういう顔していいかわからないもの!
望ちゃんを直視だけはできなくて、はじめどうり前をむく。ありがとう、ともう一度呟けば、ひっそりとわらう気配だけがその場にこだました。









「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -