「――と、いうわけです。私たちは早急に手を打つ必要があります」
諸葛亮先生が、ぼくたちや武将のみなさんを集めて現状報告をしている。つまり、誰かがこんな世界を作った遠呂智とかいう悪いやつを復活させようとしているみたい。妲己という人…妖魔らしいけれど、ぼくは面識がないと思う。だけどその名前が出た途端に、みんなの顔が苦々しく、望ちゃんがだけどちょっと面白そうに変化したから興味が出た。わりと有名人らしいよ。
「まずここで、いま偵察に向かっている趙雲殿たちを呼び戻します。これで私たちの戦力は安定するでしょう。次に各勢力への使者ですが、別の人物を差し向けるよりも1人か2人が向かったほうがよいでしょう。武将がいくからこそ説得の意味があり、しかしあくまで私たちの進軍が遅れては意味がありませんから。というわけでそれは誰が行くか……ということになりますが、」
「我らは兄者と共に進みたいぞ」
「だなっ、特に曹操んとこは行きたくねーやっ」
「……それぞれの勢力に禍根がない方、そして馬での移動速度が速い方がよろしいかと」
どっかと恨みがあったりする人だと、それこそ交渉できるわけがなくて。だけどこの世界なくる前なんて、みんなそれぞれ争っていたわけだもん、ちょっと難しいよねえ。三國からきた人はとくに。
「私は妲己の妖力に対抗するために、残らねばならないだろうな」
「……そうですね。太公望殿がいなくなってはそれこそ意味がないでしょう」
「呉ならともかく、私も曹操殿のもとは難しいと思いますね」
「私は、それほど馬で駆けるスピードが速くないのですが……」
「の、まろもじゃの……」
みんなが口々に意見を言うが、まとまらず。禍根が無さそうな人は、馬が苦手。どうしよう先生困っているかなあ。だけどぼくも馬には乗れないから意味がないや。ううん。隣にいるガラシャちゃんは馬に乗るのがとてもうまいって聞いたけど、ガラシャちゃんを行かせるのはすごく嫌だなあ。まとめるのって、難しいね。
だけど、それはガラシャちゃんの発言によって一気に解決へと向かわされた。
「父上!ミオに行ってもらえばよいのではありませんか?だってミオには馬より速い獣たちがついておりまする。別に速ければ馬でなくても問題ないでしょう?」
「ああ…確かにミオ殿の狼たちはとても速かったですね」
一気にこちらに注目が集まった。
目、目、目。何対もの瞳がこちらを向いて、思わず何歩も引いてしまう。
「……………ぼく?」
「たしかに………」
そこのあなた、たしかにとか言わないでよう!
あのねガラシャちゃん、聡いのはいいことですがそれはいま発揮しなくてもいいところ!口に出して文句なんて言えないけれど。ああ先生もすごく納得したような顔をしないでください、というかまさか狙ってました?狙ってましたよね。ガラシャちゃんが言わなければ、先生が言ってましたよね!
これ、拒否権と人権はあるのだろうか。助けを求めるように周りを見ても、望ちゃんはなんともいえない顔をしていて、りっくんは驚いたように目を見開いている。朱然なんて「あきらめろ」って口が動いているし、しょうちゃんも、無表情だけどせいちゃんも!面白そうににやにやしてる。なんだよう、心配そうにしてくれてるいっちゃんが神じゃないか!
「あの、ぼく…それぞれの軍の将の顔とか知らないし、あちらもぼくのことわからないのでは…」
「ならわらわもついていきまする。戦国の世の方々ならば、少なくともわかるのじゃ!よいでしょうか、父上」
「珠、また危険なことをわざわざしようとして……」
「いいえ父上、これぐらい役に立たせてくださいませ。新参者ゆえ、わらわが抜けたとしても損害もなく、またこちらでは役に立てるかもわかりませぬ。だから、」
「……そう、ですか…。貴女がそこまで考えているならば止められませんね。それにミオ殿と共に行かれるなら安心でしょうし」
え、ええ…!なにその無条件の信頼。光秀さんあなた親バカでしょう、なんでそんなにあっさり。…だから、ぼくは本来非戦闘員で、メカニックなんだって。大事な娘さんを預かるなんて、大役。
最後の抵抗も無駄だったらしい。もう先生の頭のなかではぼくが行くことが決定しているだろう。だっていますっごく微笑んでたもん。ここまできて、ゴネるのは得策じゃあない。どうして、こうなった…?
「はあ……、未熟者ですがその役目お受けいたします」
「そうか!感謝するぞミオ」
「はい。劉備さまの書状を頂けるんですよね。ならばぼくでもそのお役目、果たせるでしょう」
「はい、こちらで用意します。では、使者はミオとガラシャ殿にお任せするということでよろしいですか?」
「「「はい!」」」
「では次に進軍する地ですが…」
こちらに来てから、受け入れてくれた蜀のみんなと離れるのはたとえすこしの間だとしても、ツラい。けれどそうも言ってられないし、プラス思考に切り替えろ。それにこの世界をまわるチャンスだって思えばいい。
ガラシャちゃんとふたりなんて幸せなことなんだから。とりあえず光秀さんにもすっかり頼まれたようだし、ガラシャちゃんだけは守っていかないとなあ、と決心を改めてぼくは先生の話へと耳を再び傾けた。
(だから望ちゃんとりっくんがどんな表情をしてたかなんて、知らない。ましてや反対してくれてたなんて、ね!)
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