術士たちが隠れていた、あの山頂にいまツキヒと一緒に座って、いる。
いまは戦の後片付け、みたいなもの。死んじゃったひとを埋葬したり、拠点を確認したりと忙しそうだけど「お前邪魔だから」って朱然に言われたから大人しく座ってる。ひどい!キミより頭いいもんね。だからこそやることさっさと終わらせてしまってチョロチョロしてたんだけど。
あ、ひとつ驚いたのが鬼たちの亡骸が消えてること。もとの、鬼の世界に戻ったのか。消えた瞬間をみたわけじゃないから、さすがにぼくでもわからない。

やっぱりお猿さんを仕留めたのはせいちゃんといっちゃんだったんだけど、物凄く素早くて逃がしてしまったんだとか。特にいっちゃんなんてすっごく悔しがってた。けれど、ガラシャちゃんも光秀さんも無事助けられたし目的は果たしたんじゃないかな。
ちょっとは明智さんたちが清盛ってひとの話を知ってるみたいだし、あのお猿さんが配下にいるってこともわかった。それで十分じゃないかなあ。


「ねー清盛ってあの平清盛かなあ?」
《ミオが知っている歴史のなかでそやつしかいないのならば、そうだろう》
「じゃあ源九郎義経とかも来てたりするかもね!清盛って言ったら義経だし」
《ああ。ミオがいるんだからそれも有りだろう》
「ふーん。会ってみたいな!」


それで帰ったら友だちとかはーちゃんに自慢してやるの、いいでしょう!って。きっとずるいって悔しがる。
だけどその代償に、こんな戦になんか参加したくないっていうだろうけど。ゲームなんかじゃない、リアルな戦場。土と血の匂いが混ざる、生死をつねに賭ける場所。ぼくだって、生き残れる力がなければ耐えられなかったと思うよ。吐きそうになってた。こんなときはボンゴレの血統に感謝。
それと匂いだけじゃなく、気になることがひとつ。戦中は気にしてなかったけど、こうやって落ち着くと気になって仕方ない。


「それにしても、澱んでるねえ…」
《やはり人間にも見えるか。戦のあとだから仕方ないと言えば、そうだが。こうなった地は、草木が栄えにくい》
「……あれの正体ってなに?」
《そうだな……人の言葉にすると、穢れのひとつだ。戦での無念と怨念など人の負の思いでうまれる》
「それは…」
《とても悲しいものだろう?》
「…………」
《この作られた世界では特にそれが大きい。仙人たちが浄化し、鎮めようとしているがそれも足りないんだ》


隣に座るツキヒの横顔を見つめる。目を細めて大地をみるその様子は、憂いているようで悲しい。
でも今回は望ちゃんもさじーちゃんもいない、このまま見てるしかできない。


「………なんとかできないものなのかな」
《……いや、できる》
「え、じゃあやってよ」
《あ、ああ…だけど我では無理だ。……ミオは白い龍の神に「かわりにうたって」と言われたことを覚えているか?》
「ぼんやりと」
《だからうたえばいいんだ。ミオが願いながらうたえば、なんとかなる。それを合図にあの神が力を貸す》
「そんなこと、言われた気もする」
《だろう》


くすくすと笑いながらツキヒが言う。いきなりうたえと言われても。場の雰囲気も壊せないし、難しい。
はあ、と息をひとつついてから大きく吸う。あの人の代わりだったころ、言葉は少なくともちからを持っていた。だったら、ぼくが好きなうた、言葉をうたおうか。


「………………らら」


……そのさ、死んじゃったひとたちも帰りたかったんじゃないかな?大好きな家族と離れてここに来ちゃった人もいただろうし、この戦でみんなとわかたれたひともいる。だから、かえろうって。せめて心だけは帰りたいから、悔しいからここにこうして残ってるんだよ。かえろうって、言葉にのってかえってもらえたらいいのに。家で待ってるよ、ねえあなたのこと誰かが待ってる。こんなところに、くすぶってる場合じゃない。うたうから、唄うから。その道標となるように、自分なりに、彼にならって。


「――ら、ら」
《……ほうらミオみろ。みんなどこかに行こうとしている。神さまが、おまえと共にいる》


違うよ、ツキヒ。どこかに行くんじゃない、帰っていくんだ。風を感じる。あの澱んだ空気が、吹き飛ばされていく。きらきら、きらきら輝いて、どこかにかえっていく。手を広げれば、そこをすり抜けた。これが白い龍の神さまのちから。
ツキヒにしか聞こえないくらいのちいさな声だったけれど。ひとつ、うたい終わるころにはもう五行山には澄んだ空気が残るだけ。本当に、こんなにことできるなんておもわなかった。――戯言だけど。


《神さまがああいったんだ。嘘は言わないだろう?》
「う、ううん…でもなんか自分のちからじゃないから、そう実感わかないよね」
《それでいいんだ。本来、人間が神さまの力なんて使えないほうがいい。だからミオは、神さまが来やすいように道案内してるだけ。帰りやすいように道標となるだけで》
「そっか。ぼく、魔王を倒すために召喚されちゃった勇者でもなんでもない、ただの神官ポジションだって考えておくよ」
《それはまた的確な表現だ》


ツキヒはおかしそうに口をひらいて、あげていた頭を地面へ下ろす。RPGなんて知っているんだ。ハルヒのほうが好きそうなのに、そのギャップがおかしくて笑ってしまった。帰ったら作ってみようかこういうRPG。主人公はまさかの、神官A。ダメだ、売れなさすぎる!


「ミオー!」
「あれガラシャちゃん?朱然も」
「……引きずられてきたんだよ」
「早くしない朱然殿が悪いのじゃ。…もしやいまのはミオがうたっていたのか!?」
「う、うんまあ……ってよく聞こえたね」「神さまのちからが見えたからな!気になって追っていったら聞こえたのじゃ。すごい!神さまが浄化にちからをかしてくれるなんてミオはとてもすごいな!」
「あれ、ああいうのやっぱりガラシャちゃんも見えてるの?」
「うむ。わらわも父上もはっきり見えるぞ!昔からそういうのには聡いんじゃ」


きらきらと笑うガラシャちゃん、には悪いけどぼくのなかでは一番の謎の人物に設定されたよ明智親子。だって神さまのちからとか、普通のひとには見えないんだから、普通じゃないってことでしょ。
すごいすごいと笑ってるガラシャちゃんはとてもかわいくて癒されるからなんにも言わないけど。というか一緒にいた朱然は何の話だかわからないんじゃないかな?
チラッと朱然を盗み見たら目がバチっとあう。こっち見てたのか、慌ててそらしたけど、これは逆に怪しい。…こんなことまえにもあったっけ?


「は、話わかった?」
「んや全然。とりあえずこっちのお嬢ちゃんがいうには、きたないやつをミオが追い出したんだっけ」
「あってるけどあってない。ぼくはきっかけだけあげて、道案内しただけだよう」
「神さまのか?」
「うん。困ったときには神頼みがいちばんってことだよね」
「あ?意味わかんねえ。…ま、オレには澱みとかよくわかんねーけど」
「うん?」

「オレには聞こえなかったからな、おまえのうた。お嬢ちゃんがきれいって言ってたんだ、今度聞かせろよ」


オレが気になるのはそっちだよなー。神さまとか信じてないし。なんて…朱然らしい!
あははは!と隠すことすらしないで、ぼくは笑って、寝そべるツキヒの身体に顔をうずめた。やーだよ、そんな恥ずかしい。ていうかきみのそれちがう女の子な言ったら口説き文句だよう、わかってる?すっごいすっごい、似合わない!
聞きたかったら、今度は終わるまえにおいで。


(神さまなんて、人によってはつまらないんだって。はくりゅう?)









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