くらい、くらい。真っ暗闇に立っていた。
あれ、ぼくはなにをしていたんだっけ……?
眠っていた?あのかたわれのぬくもりのそばで。ふかふかのあたたかいベッドで。


そんな、わけがない。
ぼくがいたのは紛れもない戦場だった。
なら、ここは、一体?
ふと、後ろに気配を感じ振り返ろうとしたけれど、それを拒むかのように、手が目隠しのようにぼくの目を優しく覆う。




「――我が末子、東の島国に続く我が血脈に連なるジャポーネ」
「あな、たは………?」
「ついに思い出してしまったか。目覚めてしまったか。受け継がれてきた炎に。血を流し裏切り、叫び声そして断末魔に溢れる世界の頂点に立つべき力に」
「……それ、は…!じゃあ……あなたは!」

初代さま?
一言問いかけると、後ろでなんとなく笑った気配がした。見えないから、ただの直感だけど。目隠しをそっと外されて、反動のように勢いよく振り返って、やっとその人を見ることができた。鮮やかな、鮮やかな金色。とても近いところにいたあのひとはぼくのかたわれに、よく似たひと。そこだけまるで炎があるようにあたたかく、明るい。


「こうしてそなたに会うのははじめてだな、私の後継者の愛し子よ。ああ、かたわれによく似ているな」
「それは…あなたのほうを言うべきなんじゃないですか」「いいや、私なんかより似ているさ。特に、目が同じだな」



ここより先の未来、だけど過去で会った末裔に本当に目がそっくりだ。未来をつくりあげることができる、曇らない瞳。きっと彼の者の瞳を同じように輝き続けているのだろう。


「目覚めたなら私はお前の兄と同じように会ってみたかった」
「ぼくに?」
「ああそうだ。私が置いていったものは、ボンゴレは裏の世界の支配者。かたわれがお前の平和を願うように、その力に目覚めなければよかったのだが」
「そんな、だって……」

そんなことを言われたって遅いよ。
だってもっと《むかし》、ずっとずっとむかしから知ってたんだから。力の使い方、なんて。


「もちろんわかっているさ。きっといまのそなたよりも、知っている。なぜ突然扱えたのかも、その記憶がどこから来るのかも……どうして、思い出したのかも。そしてそれはただの願望。巻き込みたくないと思うあまりに勝手な考えだったことも」
「……わか、らないよう、初代さま……。だっておかしいんだ、怖いんだ。ぼくは、一度見たものも聞いたものも、忘れないはずなのに!それを《思い出した》のに!わからないことが、あるなんて!」
「…ああ、そうだな」
「なんだろうね、懐かしいこの気持ち。あいつって、だあれ?あの子は?青色がこんなにも大切なのは…………」
「――大丈夫だ。お前が、知りたいと望む限り、少しずつ少しずつわかってくる。だってそうだろう、答えは全部、お前が持っているのだから。知っているのだろう、《忘れている》だけだと。《思い出した》のだと」
「あ……………」



じわりと涙が滲んできた目尻を安心させるかのように、ぬぐって。ぼくなんかよりずっと高い目線を合わせてくれて。こつんとそのまま額をあわせた。
…………これ、つーくんと一緒だ。つーくんが昔から、ぼくが泣いたらしてくれる、おまじない。


「ほーら、もう、怖くないな」
「…………っうん!うん、怖く、ないよう……!」
「そうだ。大丈夫だろう」


そのまま穏やかに笑って、離したぼくの頭を撫でるひとは、やっぱりつーくんとそっくりで、違う。こんな笑いかたはつーくんしないもの。でも、安心させてくれるのは、一緒。そして、どうしてかどこかぼくとも似ていて、ぼくもこの人の子孫なんだと思った。



「――さて、そろそろだな」
「え、なにが……?」
「名残惜しいが、別れの時間だ」


ふわり、と初代さまは笑ってぼくをとんっと後ろからおす。落ちた先には、とても白い世界が広がる。急なことで反応ができない、でもこれだけは伝えさせてください。




「あり、がとう!初代さま……!」


笑顔で、ピース。伝わったかな。
でも最後に見えた初代さまの手が、ぼくと同じくピースの形をつくっていた気がした。




(かわいいかわいい私達の愛し子よ。しかし忘れるな、その力の存在を違えたときは、血は容赦はしない。片割れとは同じくして異なる炎をどう使うかはそなたの自由だ……………力を持つために巻き込んだ我らを許してくれ、かわいいミオ)


最後に届いた言葉を聞きつつ、ぼくの意識はシャットダウンした。
























目をあけたら、最初に銀色を見た。そして紫の瞳が驚愕の形に歪められる。なんだかおかしいね、最後に意識を失ったときとおんなじようにまた銀色を最初に見るだなんて。



「……お、はよーう……望ちゃん」
「……、まったく寝過ぎだぞ?ミオ」




確かにそうだねって思って今度は少し笑ってしまった。

(おやすみなさい、初代さま。そして、おはよう)










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