それは本当に自然に、当たり前のように口から出た。
「お手てをあわせて、いただきまーす」
ああ不思議。額から炎が出てるのに全然あつくない。それどころか体が軽くて、はじめてのはずなのにそうじゃないとわかっていた。きっと炎は橙色。だけどそれだけじゃないって知ってる。
パンパン!と銃の中身をすべて捨てて、空砲をぼくの前に倒れたひとへと、撃つ。そうすれば、なにもはいっていないはずの銃から黄色の炎が飛び出して、広がる。瞬く間に消える、傷。
だって言ったじゃん。再生(リサイクル)は得意なんだ、って。
動揺がぼくを囲む鬼たちに走る。だけど、それ以外の鬼たちも、人も気づいていない。
好都合。
相手のふいをつけ。だって力が足りないぼくが、あいつに付き合わされてたら自然とこうなったんだもん。
一度にやってしまえ。それにひとり対大勢のほうが、慣れてるんだよう。
左足から三本の銀食器(シルバー)を取り出すけれど、それは瞬く間に数を増やしていく。もういくつになったかわからないほどのスプーンにナイフにフォーク。それにやっと気づいて鬼たちが動きはじめたとき、炎がそれぞれに灯り、ぼくの手のなかから消えた。
独眼竜伊達政宗は部下を引き連れて馬で駆けていく。
「あの馬鹿共めが!!先走りしおって!!」
いくら妲己が武将を引きつけているといっても、相手には総大将がいる。
まだなにかあるかもしれないのに。
それにある少女を傷つけずに捕まえろ、とまで言われていたのに台無しになっているかもしれない。なにしろ鬼はせっかちだ。ああくそ。
「政宗様、あれは……」
「呉と蜀の兵士ですな」
「ちぃっ厄介な!」
ほらみろ。もう異変に気づいて帰ってきてしまっているじゃないか。これでは無傷などなおさら難しい。罪のない民草もいるというのに、ああもう妲己がいう娘など殺されているのかもしれない。
「邪魔だ、どけ!!」
多くの鬼が立ち、人間の死体が多く沈んだだろう、中の地獄を想像しながら、本陣へと駆け入った。
だけど
そこにあったのは、考えていたのとはまったく違くて。
それは地獄だけれど、沈んでいたのは多くの鬼、そして黒い塵と化した炭。
そして立つのは白い髪の少女の後ろ姿だった。
(だから、言ったでしょう。ただ、忘れてただけなんだって)
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