「あれ…りくそんさん、も一緒ですか?」
「はい。せっかく蜀のもとにいるのです、諸葛亮先生に学ばない理由がありませんから」
「ということは陸遜さんも軍師?」
「まあそうなりますね」


みんなと別れて、諸葛亮さんのもとへと来ると先客が。とりあえず、隣に座って待ってようと、話かけて許可をとるけれど。彼は書物に夢中で話し相手にするには、邪魔をしてしまうから申し訳ない。ただでさえ、最初のあれだ。これ以上印象を悪くするのはたまらない。せめて暇つぶしにと、ちら、と陸遜さんが持っている書物を見る………が、よめ、ない。
なぜならばそれはすべて漢字、しかも崩されていたからだ。いくら勉強ができても、習っていないものは読めない。


いくら《むかし》中国語を使えたって、変わってるところはたくさん、あるでしょう?

……………あれ?むか、し?


「お待たせしましたふたりとも」
「いえ!これから、よろしくお願いします」
「はい」
「先生、今日はどちらを学ぶのでしょうか?」
「そうですね……」


せんせい、かあ。
心のなかではすでによんでるけれど、ぼくもそう呼んじゃおうかなあ。


「ミオ殿、」
「なんでしょうかせんせい!」
「……おや?」
「にひひ、陸遜さんに習って。だってもう諸葛亮せんせいはぼくの師匠ですもん。だからミオ殿なんて呼び方止めてくださいね」


はっきりいって、むずがゆい。
そんな呼ばれ方、あのお父さんのお弟子さんくらいしかしなかったし。


「ふふ、ならばミオ。まずこちらを読めますか?」
「あー……漢字だけなら読めるといったら読めるんですけど、白文はむりですね…訓点がついてないとどうにも」
「白文とは?」
「あー…と、…未来での、先生、たちの国の文をいいます。言葉をぼくたちが読むときに使うのが訓点と呼ばれるものなんです」
「へえ…ミオ殿のところでは他国の国の言葉まで、学べるのですね」
「そうですねえ。戦がないかわり、学ぶべきことがたくさんあったんですよ」
「落ち着いて学べる場というのは素晴らしいことです」
「はい。未来のひとはずうっと幸せだと思いますよう」

ぼくが、ううん違った。みんながいた裏側では争いはあったみたいだけど。それでも普通のひとは、平和だった、幸せだったんだよう。


「ではミオ。今日は文字は私が説明しながらやりましょうか。しかしこれから少しずつ覚えていただきましょうか」
「なら先生、文字は私が教えましょう」
「りくそんさん?そんな、悪いです……」
「いいえミオ、せっかくだから教えてもらいなさい。陸遜殿に教わるのが一番早いでしょうから」
「そう、なんですか?ならそーですね。よろしくお願いします」
「はい、ミオ殿。がんばりましょう」
「さあまずは基本的なことから…」


はっきりいって先生の教えはわかりやすかった。いままでの学校の先生がなんだってくらいには。それにね、ときどきぼくたち以外のひとたちもやってきて判断を仰ぎにくる。先生ってすごいひとなのだと改めて思ってしまう。


「ミオ殿、ここは火計を発動するのがいいですよ」
「あ、そっか。ありがとうございます」
「いえいえ」
「しかしミオは覚えがはやくていいですね。姜維と同じくらい、といってもよいと私は思いますよ」
「きょうい、さん?」
「ええ。今は力試しといって各地をまわってここにはいませんが、私の一番弟子です」
「姜維殿は麒麟児……つまりは天才ですが、そう称される方で私も一度、軍略で競ってみたいのです」
「天才、かあ……りくそんさんがそういうなんてすごいなあ…」


だって彼も天才と呼ばれる人でしょう?
しょうちゃんが言っていたし、若くして軍師になった凄い人物だって。
それにいま一緒に話していても、他のひととはレベルが違う。ぼくにだって、それくらいはわかるんだよう。


(それでも、死線をこえることはないんだろうけど――?)


「……きっとそのうち会えるかもしれませんね。こうして戦火が広がっているいま、どこかの軍にはいるはずですから」
「そっかあ……楽しみですね、りくそんさん?」
「その頃には、ミオ殿も彼と競っているかもしれませんよ」
「いやいや、さすがに無理っていうものが……」
「いいえ。ミオ殿でしたら、すぐに兵法を身につけられると思います。まあ無理というなら、無理やりにでも、そうさせますけど……」
「え……」

く、黒い……!焦った、陸遜さんもすごく綺麗なひとだから、そんな風に微笑みながら言われると照れてしまう、と思ったのに!これは、やらないと、ヤラレル…!
あーあ、でもなんだろうねえ。ぼくのまわりも男の子も女の子も綺麗な人が多かったけど。こっちも望ちゃんといい陸遜さんといい…昔の男の子もみんな綺麗だよねえ。受け攻め考えたら、殺されそうですが。


「お話中失礼いたします。あの…丞相、これから少しよろしいでしょうか」
「おや…もうこんな時間ですか。ならば今日はここまでとしましょう」
「あ、ありがとうございました」
「いえ、楽しかったですよ。明日も同じ時間で」
「はい、また」


ガヤガヤと人々が通り過ぎる音が聞こえてきた。あー、もうお昼の時間なんだ。
楽しすぎて、わかんなかったや。ああでもお腹空いたかも、ねえ。


「ミオ殿」
「はい?」
「よかったらさっそく今日の午後から文字を教え始めましょうか」
「え、忙しいんじゃないんですか」
「ああ。今日は仕事があまりないんですよ。だから気にしなくていいです」
「…じゃあお願いしちゃいます」
「はい。それと、私に対してもそんな敬語じゃなくていいですよ」


同じく先生に師事する者でしょう。と、またその綺麗な顔で笑う。
う、だからそーいう笑顔は止めてほしい。綺麗でドキドキするけど、怖いんだよう!


「じゃ、じゃありくそん、さんも…」
「その陸遜さんっていうのもやめてくださいね。呼び捨てでいいですから」
「う、…りくそんさ………ああもうわかりました。じゃあ言いにくいので遠慮なく、りっくんと呼ばせていただきます」


きっと彼は軽く楽しんでる。だったらもうぼくも吹っ切るしかないじゃんか


「りっくん……そうきましたか」
「ええ。りっくんです。きみも敬語はやめてねえ」
「そういわれましても、私はこれが普通なので」
「あー、ずるい」
「なんとでも。ふふ、やっと普通になりましたねえ」
「……はい?」
「私や先生に対してはまだ遠慮してたみたいで、それも面白かったんですけど」
「面白かったの!?」
「はい、もちろん」


ああ涙目。
なんだろう、しょうちゃんたちが懐かしいよう。だけど、なんだかんだでこうやって面倒をみてくれるのは、優しいからなんだろうね。


「諸葛亮先生もそうやってミオ殿がちゃんと笑うほうが嬉しいはずです」
「うん、そーだよねえ………、あ!」
「どうしました?」
「ミオ殿、じゃなくて呼び捨てでいいよう。敬語はなし、なんでしょう?」
「…まあ、一本とられましたね、ミオ」
「やった!勝った!」
「そうやって喜んでいられるのも、いまのうちです」
「な、んだとう……!?」


すこしずつ、笑いあえたら。
こーんな素敵なことはなかなかないでしょうね










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