《ミオ、……おはよう》
「……………ハルビン?」
《え、えぇええ!ハルビンってだれ、だれなの!寝ぼけてるの、わざとなのわかんないよ!》
「え。わざとに決まってるじゃん」
《………せっかく戦がおわったみたいだから起こしてあげたのに》


ふあ、とあくびをひとつしてごめんごめん、と軽く謝りながらハルヒの頭を撫でる。目を細めて気持ちよさそうにしていて、これだけで機嫌がなおってしまう単純さがすごくかわいかった。
周りをみればたしかに騒がしかった戦場は静かになっていて、ぼくの耳をあんなに冒していた悲鳴だとかも消えていて気分がよくなっていた。すっきり起きれたのはこのせいかもしれないなあ。いや、あんな騒がしいなかですっかり寝ていた人間の言うセリフじゃないとはわかってるんだけど。


「じゃ、行こうか」
《ツキヒがいるとこでいいのか?》
「うん。真っ直ぐ、寄り道とかしなくていーよ」
《りょーかい!さ、ミオもクーピーも乗って》


ぼくたちを乗せたハルヒは、社のある崖を軽く飛ぶと走りはじめた。…後ろの社を少しの間だけ見つめて、前を見た。ありがとうございます。あなたが力を貸してくれたから勝てたんだから。
それは間違うことのない事実、じゃなければぼくたちが増えようがなにしようが負けていただろう。実際ああやって寝ていたわけだし?
そういえば、呉の陣営に向かってるってことは力を貸してくださるよう頼んだあのおにーさんたちもいるんだろう。ハルヒがこうやってぼくのところへ戻ってきてくれたから、無事に戦場に戻ったとは思うんだけど……治したとはいえけっこう満身創痍だったし、あのあと死んでないよねえ。

周りを見れば、また消えている鬼の死体と弔いがまだ済んでいない人間たち。澱みはどうやらさっきの神さまの水によって流されたようで感じない。これで雨でも降らせば、鎮静のあめ、浄化の雨なのに。


《…あ!いたぜ、ツキヒの気配がする!あとさっきのニンゲンふたりもあのへんにいるみたい》
「ガラシャちゃんは?」
《う………ん!いた!ツキヒたちとおんなじとこにいる》
「じゃあ、そっちに真っ直ぐ突っ込むよーう!」
《おう!………あ。》
「あ?」
《い、いや、なんかミオと似た気配がしたから……》
「ぼくと似たー?ふーん…………」



それはできたらあの青か、どっかのお兄さんだといいんだけどなあ。なんて心の奥底、どっかぼくも知らない場所で考えながら進む。ハルヒの頭をもふもふしながら、見えてきた赤い旗と人々の集団。もうすぐそこだ。


《………きたか》
「お…?あ!ミオー!やっときたのだな!」
「ガラシャちゃん!」
「ミオー!わらわたちは勝ったぞ、本陣もみな無事じゃ。任務を遂行できるな!」


端のほうで、ぼくたちを見つけて手をふるガラシャちゃんとツキヒのもとに向かいハルヒから飛び降りる。ついさっきわかれたばっかりなのに、なんでか懐かしいなあと思うのは、戦という雰囲気のもとにさっきまでいたからなのかな。
ガラシャちゃんに怪我がないことを確認して、ツキヒが泥とかで汚れていることを笑っていたら後ろから誰かがくる気配。振り返ったら、さっきの戦で会ったふたりと。


「よお、お嬢ちゃん」
「呼び方戻ってますよー。さっきぶりです、人のハルヒを奪ってくれやがった長宗我部さんと源九郎さん」
「いや、俺の名前は氏が別に九郎までなわけじゃないからな。そういう地味な嫌がらせはやめろ」
「えー。じゃあぼくにどうしろと!」
「どうもするな、頼むから」
「ふん。それはそうとそっちのは明智の娘か。獣がいるとはいえミオとふたりで今まで生きていたわけではないだろう。…なにしに来たんだ?」
「ああ、実はぼくたち……」
「てめえら!!」


ちょうどいいから、ふたりにぼくたちの目的を話して、呉の孫権さんだとか孫堅さんのところに連れて行ってもらおうと口を開けば、邪魔がはいる。こういうの多いよね、とため息ついて振り向けばさらりと流れる銀髪と悪い目つきの男の人………っていうか、あれ?そんな濁すまもなく、ねえきみ、なにしてんの?


「うお"ぉ"い!義経も元親もなに油売ってんだあ、さっきからあっちで呼んでんだぞお!」
「ああ、すまないな。先ほど我らを助けてくれた者がいたので、挨拶ぐらいしても罰は当たらないだろう?」
「ああ"?助けたってその餓…鬼……」
「…スクアーロさん、ですよねえ……」
「あー、やっと見つかりやがったか、馬鹿娘」



銀色の長い髪を風に揺らして、剣を手に堂々と立つこの人は、まごうことなくぼくの知り合いの暗殺者だった。


(なんかどこもかしこも出会い多くない?)






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