やさしさなんて知らなくてよかったころ

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振り | ナノ




あれから私は彼と話さなくなった。あの日、矛盾した気持ちのまま一方的に彼の手を振り払った。私の名前を呼んだあの声が、押し返した時のあの表情が、頭から離れてくれない。頭では分かっていたのに、体は全く正反対の事をした。離れる決意をしたはずなのに、それに納得したはずなのに、腕は彼へと伸びていた。それを見逃すはずがなくて、気づいたら彼の中だった。逃げるように教室を飛び出した私。離れたのは私なのに、彼の温もりが恋しいだなんて、こんな身勝手ってないね。寂しい気持ちを隠すかのように、私はマフラーに首を埋めた。季節は冬。あれから1年以上経って、今は受験シーズンだ。私は西浦に決めていた。私服高だし、なにより硬式野球部がないから。彼がどこの高校に進学するのかは分からない。だけど野球はきっとやるのだろうと思い、私はその野球から離れようと思った。放課後のグランドでの練習を見てしまったら、私は胸を締め付けられる。そんな3年間は耐えられない。いつもいつも彼を思って、温もりを欲してしまう。そしてどうしてここに彼がいないのだろう、と虚無感でいっぱいになるだろう。結局私は自分が一番傷つかない道を選んだのだ。

「まあ、この成績なら大丈夫だろう。このまま頑張りなさい。」
「はい、ありがとうごさいます。」

模試の結果を持って職員室に行った。だけどそこには先客が居た。しばらくぶりに見る彼に、私は胸を押さえた。今にも飛び出しそうな体を精一杯ここに留めて、でも目だけは彼を捉えて離さなかった。いや、離せなかった。だって彼も私に気づいていたから。私達はまるで、今までの時間を取り戻すかのように、瞳を合わせていた。ふと、先生が私の名前を呼んだ。そこで私の意識は一気に鮮明になり、先生の元へと足を進めた。彼は一言いい、その場から去った。久しぶりに聞いた彼の声に泣きそうになった。あれ程近くにあった声がこんなに遠いだなんて。温もりが恋しくて、思わず手を伸ばしてしまいそうだった。だけどそんな資格なんてあるはずなくて、私はただ、遠ざかる広い背中を見つめるだけだった。その後は先生と進路について話したけど、正直頭には入ってはいなかった。考えるのは彼のことばかり。本当に呆れてしまう。全て自分で撒いた事なのに、どうして後悔なんてしているのだろう。だけどもし、過去に戻ることができたとしても、私は同じ選択をするだろう。これが一番だったと、そう思うから。例え私の側に彼がいなくても、それが彼の幸せに繋がると思うから。これも勝手、私の、自己満足。ごめんね、これできっと最後だよ。別々の道を行く私達はもう逢わない。お互いが思い出になってそして消えていくんだ。でもね、私の中の君はきっと消えてくれない。ずっとずっと、君を思って大人になっていくよ。もし、もしまた君に逢えたら、もし君と話せたら今度は正直になりたい。奇跡に近い望みをそっとしまって、小さく願った中3の冬でした。



(君はきっと私を思い出にするね)


100615



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