やさしさなんて知らなくてよかったころ

Information

spanで下線
markでマーカー
strongで重要事項
emで強調
セクションリンク
class="link"

class="left"で左揃え

midashi

section>section

Main contents

Long story

定義リスト
テキスト
リンク *
テキスト

Short story

icon
振り | ナノ




綺麗な髪だと、そう素直に思った。少し赤味がかったその髪は、黒髪の中で目立っていた。その髪をからかうやつだっていたけど、多分それは羨ましかっただけなんじゃないかと思う。幼いながらも、淡い想いが浮き上がって、その子を目で追うようになった。だけど、その子はいつも泣いてばかりで、それ以外の顔なんて見た事がなかった。だから笑った顔が見たかった。どんな顔をして笑うのか知りたかった。どうやったら見れるのか幼いながらも必至に考えた。そんな時だったんだ、一人ドームの中で泣いている彼女を見つけたのは。嗚咽を漏らしながら涙を拭う彼女は、綺麗だった。涙なんて誰だって流すのに、何故か彼女の涙はとても綺麗だと思った。

「どうしたの?何で泣いてるの?」

泣いてる理由なんて知ってるのに。だけど彼女はきっと俺を知らないだろうから、そう聞くしかなかった。彼女の涙はとても綺麗だったけど、俺が見たいのは笑顔だった。ずっと見てみたい笑顔が見れるかもしれない。俺は彼女の言葉を待った。話してくれたら、俺はただ素直に受け入れるだけだ。無理矢理なことはしない。折角できたチャンスだ。それを自分から失うなんて馬鹿げている。そして何より彼女に嫌われたくなかった。俺が静かに待っていれば、彼女は言葉を詰まらせながらも話始めた。必至に俺に伝えようと、一つ一つ確かに言葉にして俺に伝えていた。零れ落ちるそれを俺は自分の中にしまっていった。全て話終えた彼女の目は真っ赤に染まっていた。話終えても止まらないそれを拭って、彼女をドームの中から外へと手を引いた。太陽の光が眩しかったのか、彼女は少し目を細めていた。目をパチパチと瞬きさせて、俺の方に目を向けた彼女は俺にお礼を言った。その時自分の中で何かが弾けた感覚を感じた。彼女に恋した瞬間だった。

「準太」
「ああ、おはよう。」
「おはよう。」

中学生になった俺達は、あの頃と変わらない関係のままだった。変わったのお互いの体つきだけで、俺の気持ちだって少しも変わっていなかった。こうして朝、俺に笑顔で挨拶してくれる彼女に、想いは募るばかりだった。告白して、俺の気持ちを伝えられたらどんなにいいだろう。だけど彼女はきっと望んでいない。俺を兄のように慕う彼女に、臆病者な俺は前に進めなかった。この笑顔が見れなくなるのが何より嫌だった。他の誰かにこの笑顔を見せたくなかった。彼女は中学生になってから髪の色でいじめに合うようになった。先輩からの呼び出しが多くなっていた。彼女が傷付くのは嫌だった。だから先輩やクラスメイトの目の前で彼女を庇った。だけど、いじめに合う度に俺の元へ泣きじゃくりながらくる彼女が愛しくて、俺は彼女に必要とされているのだと、実感できた。優越感に浸っていたのだ。

「あら?あの子もい学校に行ったわよ?」
「えっ?」

いつもの時間、いつも通りの朝。俺は彼女が中々現れなかったので、家に訪れてみた。でもそこに彼女はもう居なくて、出てきたのは彼女の母親だった。今まで先に行ってしまう事など一度もなかった。それから学校でも彼女は俺に近寄らなくなった。メールも電話も返事は返ってこなくて、避けられているのだと初めて知った。どうして避けられるのか分からなくて、苛立ちが募るばかりだった。突然すぎる事態に俺の頭はついていけなくて、ぐしゃぐしゃになるばかりだった。だが、一つ思いあたる事があった。認めたくなくて、目を反らしてきた事実だった。俺の汚い部分を知られたという事だ。彼女を庇ったのは彼女の為じゃなくて、自分の為だと知られてしまったのだろうか。それが事実なら、辻褄が合う。でも、それだけは認めたくなかった。認めてしまったら、俺の中の何かが壊れる気がしたから。

「なぁ、なんで避けるわけ?」
「……」
「俺…なんかした?」

ある日の放課後、俺は意を決して彼女を呼び止めた。このままではダメだ。きっと今、話さなければ一生戻る事はできないだろう。そう、思って彼女に聞いたはずだったのに、俺の口から出た言葉は情けない声色だった。それでも彼女の表情だけは見逃さないように、瞳を見詰めて言った。彼女の瞳は僅かに揺れて、今にも泣き出しそうな顔をしていた。違う、違うんだ。俺が見たいのは泣き顔なんかじゃない。いつも俺に笑ってくれた彼女が、俺のせいで泣きそうな顔をしている。一番見たくない表情を俺がさせてしまっていた。だけど揺れた瞳から、彼女の中の俺が消えていない事を知った。ああまだ俺は彼女の中に存在している。小さな声で、優しいこえで、彼女の名前を呼んだ。儚げな肩を揺らした彼女は目瞳を開いて俺を見詰めていた。だけどすぐに彼女は目を反らして、教室を飛び出した。その時すぐに追いかければよかったのに、俺は彼女の名前を叫んだだけで、後を追わなかった。彼女が教室を飛び出す前、俺に手を伸ばしそうになった。それを見逃すわけなくて、彼女を抱き締めた。その時に回された手があまりにも優しくて、彼女の気持ちが伝わってきた気がした。だから彼女の名前を呟いた。でも、その瞬間に彼女は我に返って、俺を突き放した。酷く傷付いた表情で俺を見ていた。そして彼女は教室が出て行った。もう、俺は訳が分からなくて、その場にしゃがみこんだ。腕を回された時、確かに感じた彼女の愛しさ。俺と同じ気持ちだと思った。だけどその後の傷付いた表情。俺の中の何かが崩れ落ちた中2の秋だった。



(もう、二度と君は…)



100525


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -