やさしさなんて知らなくてよかったころ

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振り | ナノ




ただびっくり、としか言い様がなかった。こんなに早く、あの人に会うとは思っていなかったから。野球部のマネージャーに入った時点で、会ってしまう覚悟はしていた、はずたった。けど、いざ相手を目の前にしたら私の覚悟は粉々に砕けた。心の何処かで会えるだろうという下心もあったはずなのに、心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥ってしまった。そして出来る事なら、今すぐに逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。だけど私の体は硬直したままで、それはまるで時間が止まってしまったかのようだった。その空間に先に断ち切ったのはあの人だった。何かを言う訳でもなく、ただ彼は視界から私を消した。きっと私達が見つめあったのはほんの数秒だったはずなのに、私には数時間も見つめあっていたような感覚だった。

「大丈夫かよ。」
「な、にが?」

私の笑顔とは言えない笑みを見て、阿部は顔をしかめた。阿部は私と彼の事を知っている。それもそのはず、阿部だけではなく、シニアに居た人達はみんな知っている。私と彼、榛名元希と私が付き合っていた事を。私が榛名先輩と付き合っていたのは、彼がシニアに入る少し前からだった。付き合い初めの彼は、照れ屋で、不器用だけど、とても優しかった。そして何より野球が好きだった。野球をしていた榛名先輩はとても活き活きしていた。けれど、ある日を境に彼は変わってしまった。腕を痛めて、監督に放り投げられた日の事だった。それからの榛名先輩は指導者を誰も信用なんかしないで、徹底的に自己管理をし始めた。そして他人との間に分厚い壁を作ってしまった。確かにあんな事をされたら他人と距離を置くようになるだろう。それは私も例外ではなかった。けれど、私はきっとすぐに元の榛名先輩に戻ってくれると思っていた。また野球が好きで、投げる事が好きで、楽しそうに野球をしている榛名先輩に戻ってくれるって。だけどそれは私の自惚れだったんだ。日に日に頑なになっていく榛名先輩。だから一度だけ言ってしまった。もっと楽しんで欲しい。野球をする事が大好きな先輩が見たい、と。だけどそれが自惚れだった。私は彼の苦しみも、悩みも、何も分かっていなかったんだ。そして彼は、その日から私に話しかけなくなった。私は榛名先輩を好きな気持ちを抱えたまま、先輩との青春は幕を閉じたのだった。でも、私の中にはまだ、消えないまま残っているんだよ、先輩。



(反らされた時、本当は心臓が止まりそうだったの)



100412ただびっくり、としか言い様がなかった。こんなに早く、あの人に会うとは思っていなかったから。野球部のマネージャーに入った時点で、会ってしまう覚悟はしていた、はずたった。けど、いざ相手を目の前にしたら私の覚悟は粉々に砕けた。心の何処かで会えるだろうという下心もあったはずなのに、心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥ってしまった。そして出来る事なら、今すぐに逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。だけど私の体は硬直したままで、それはまるで時間が止まってしまったかのようだった。その空間に先に断ち切ったのはあの人だった。何かを言う訳でもなく、ただ彼は視界から私を消した。きっと私達が見つめあったのはほんの数秒だったはずなのに、私には数時間も見つめあっていたような感覚だった。

「大丈夫かよ。」
「な、にが?」

私の笑顔とは言えない笑みを見て、阿部は顔をしかめた。阿部は私と彼の事を知っている。それもそのはず、阿部だけではなく、シニアに居た人達はみんな知っている。私と彼、榛名元希と私が付き合っていた事を。私が榛名先輩と付き合っていたのは、彼がシニアに入る少し前からだった。付き合い初めの彼は、照れ屋で、不器用だけど、とても優しかった。そして何より野球が好きだった。野球をしていた榛名先輩はとても活き活きしていた。けれど、ある日を境に彼は変わってしまった。腕を痛めて、監督に放り投げられた日の事だった。それからの榛名先輩は指導者を誰も信用なんかしないで、徹底的に自己管理をし始めた。そして他人との間に分厚い壁を作ってしまった。確かにあんな事をされたら他人と距離を置くようになるだろう。それは私も例外ではなかった。けれど、私はきっとすぐに元の榛名先輩に戻ってくれると思っていた。また野球が好きで、投げる事が好きで、楽しそうに野球をしている榛名先輩に戻ってくれるって。だけどそれは私の自惚れだったんだ。日に日に頑なになっていく榛名先輩。だから一度だけ言ってしまった。もっと楽しんで欲しい。野球をする事が大好きな先輩が見たい、と。だけどそれが自惚れだった。私は彼の苦しみも、悩みも、何も分かっていなかったんだ。そして彼は、その日から私に話しかけなくなった。私は榛名先輩を好きな気持ちを抱えたまま、先輩との青春は幕を閉じたのだった。でも、私の中にはまだ、消えないまま残っているんだよ、先輩。



(反らされた時、本当は心臓が止まりそうだったの)



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