やさしさなんて知らなくてよかったころ

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中学に入って間もない頃から、私は髪の事で先輩に生意気だと言われてきた。いつも地毛だと言っているのに、染めてるんだろ、の一点張りだった。だからいっそのこと黒く染めてやろうかと思った。だけど彼が、私の幼馴染みが、この髪の色を好きだと言ってくれるから。髪を優しく撫でてくれるから。だから私は先輩の嫌味にだって耐えられた。準太はいつも私の側に居てくれたの。先輩に睨まれていた私には、友達なんていなかった。みんなうわべだけの顔をして、危なくなったら知らん顔をする。誰も私を味方してくれる人は居なかった。そんな状況でどうして人を信じろなんて言える?誰一人として私に関わろうとしないのに。誰一人として私を見てくれていないのに。けど、準太は違った。いつも私を心配してくれて、先輩から庇ってくれた。泣きたい時には抱き締めてくれた。だけどある日私は聞いてしまったのだ。心の何処かで不安に思っていた事だったかもしれない。だけど私の利己心で見ないふりをした。

「高瀬君、あんな奴庇うの止めなよ。今高瀬君の評判悪いよ?」

怖かった。一人になるのが怖かった。先輩に虐められるのだって、本当は凄く怖かったの。だけど準太が居たから、準太がいつも私を待っていてくれるから、耐えてこられた。けれど私を救ってくれた準太が、私のせいで悪く言われている。そんなの耐えられなかった。先輩の虐めを耐えている方が何十倍もましだった。だから私は準太から離れようと思った。準太は優しい人なのに、私なんかのせいで、それが塗りつぶされてしまっていたから。だから私は準太と距離を置くようにした。極力話さないようにして、避けるようにした。それに気づかないはずがない準太。私が避け始めた頃、誰も居なくなった教室で私は準太に問い詰められた。

「なぁ、なんで避けるわけ?」
「……」
「俺…なんかした?」

抱き着いてしまいたかった。全て話してしまいたかった。だって準太が眉を下げて悲しそうな顔をするから。今にも消えてしまいそうな声で私の名前を呼ぶから。けれどそれでは意味がない。準太は私に関わってはいけないの。だからどうか、私の居ない所で笑って。私なんて忘れてしまっていいから。準太が幸せに笑って過ごしていればなんでもいいの。だからねぇ、そんな顔しないで。準太は私と話している間、私から目をそらさなかった。ずっと私を見ていた。それに耐えられなかったのは私の方だった。だから逃げるように準太から離れて、教室を飛び出した。私の名前を呼んでいた準太に一切脇目も振らず、ただ走った。息が切れて、足が重くなってきても、ひたすら走った。そして行き着いた場所は思い出の公園だった。無意識だったとは言え、どうしてこの場所を選んでしまったのか。ここは昔よく遊んだ場所だ。そして準太と出会った場所でもある。幼稚園の頃、今の場所に引っ越してきた私は、やっぱり髪の事で毎日からかわれていた。転入生と言う事もあり、目立っていたのだろう。そして決まって私はこの公園のドームの中で泣いていた。泣き喚く私をいつも困った顔で慰めるお母さん。そんな顔をさせてしまっている自分が嫌で、だから私は家では泣かなくなった。一人外に出て、日が暮れるまで公園で泣くようになった。そしてそこに準太が現れたのだった。

「どうしたの?何で泣いてるの?」

これが初めての出逢いだった。準太は嗚咽混じりで、聞き取りにくかったであろう私の言葉を、一つ一つ確かめるように聞いてくれた。馬鹿にしない、困った顔もしない、それが嬉しくて、嬉しくて、私はまた涙が溢れてしまった。それから私が準太に心を開くのには時間がかからなかった。初めて会ったあの日、ようやく私が落ち着いたのを見て、準太は私を家まで連れてってくれた。そしてその時お互いの家が近い事に気付いたのだった。毎日一緒に遊ぶようになって、私も泣く事が少なくなった。だけどやっぱり泣いてしまう事はあった。その度に私は一人ドームの中で嗚咽を漏らしていた。

「みぃーっけ。」
「!」
「あーぁ、また泣いてんの?」
「だっだっ、てぇ…!」
「はいはい、よしよし。」


私が泣いていると一番に見つけてくれるのはいつも準太だった。親ではなく、いつも準太だった。私が泣く度に準太は私の背中に手を回して、落ち着かせようと優しく擦ってくれた。準太の胸に額を押し当てて、抱き締めてくれる彼に酷く安心して、私はいつも暗闇から救われた気がしていた。

「あのさ、一人で泣くのやめろな。」
「……」
「泣きたくなったら、俺んとこに来いよ。」
「…うん。」
「…約束な。」
「……うん。」


準太のこの言葉に私はまた泣きそうになった。一人で泣かなくていいんだ。準太がいつも側に居てくれるんだ。嬉しくて、ただ嬉しくて。ねぇ、準太。私ね、あの日から準太の前以外では泣いていないんだよ。幼い頃の約束なんて貴女は忘れてしまっているかもしれないけど、私の中にはまだ鮮明に残っているんだよ。だけどこの約束はもう要らないね。準太は準太の道を行くのだから。私を忘れて、私の居ない所で過ごして行くのだから。…嘘。嘘なの。私を忘れてなんか欲しくないの。私が居ない場所で笑って欲しくなんかないの。ずっと側で、私に笑いかけてくれる貴女を見ていたいの。一緒に居たいの。気付いた時にはすでにあったこの気持ち。出逢った瞬間から芽生えていたかもしれないこの気持ち。好き、好きなの。準太が好きなの。ずっとずっと、準太が大好きだったの。だけど私達はただの幼馴染みで。きっとこの気持ちを話してしまえばもう元には戻れない。側に居れない。臆病者で卑怯な私。自分が傷付かない最善の道を選んで、見ないふりをする。準太から離れたのだって、悪口を言われる準太を見たくないから。こんな卑怯者、誰が好きになるって言うの。準太、ごめんなさい。約束を破ってしまう。もう意味のない約束かもしれない。貴女にとってはどうでもいい約束かもしれない。それでも私にとっては確かな約束でした。ぽたぽた流れ落ちるそれは、二度と流さないはずの涙だった。



(ねぇ、覚えてる?)



***
時間様に提出。
参加させて頂き、ありがとうございました。

胡已 100505


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テーマ「人外ファンタジー」
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