やさしさなんて知らなくてよかったころ

Information

spanで下線
markでマーカー
strongで重要事項
emで強調
セクションリンク
class="link"

class="left"で左揃え

midashi

section>section

Main contents

Long story

定義リスト
テキスト
リンク *
テキスト

Short story

icon
振り | ナノ




いつも孝介は練習、練習。休日になったら1日練習。西浦の野球部に入ってから孝介は練習が楽しくなったみたいで、サボるなんて事をしなくなった。中学の時より一緒にいる時間が少なくなった事に、正直寂しさを感じていた。だけど、せっかくやる気になっている孝介に寂しい、なんて言えなくて、寧ろ頑張ってね、なんて言ってしまうのだ。本当は寂しくて堪らないのに、自分の気持ちは奥底に仕舞い込んで何でもないかのように振る舞う。それが1番いい。孝介の重りだけにはなりたくないから。負担になるなら私は自分に嘘を重ねて孝介を応援するよ。だから、ねぇ、そんな顔をしないでよ。本音を、言いたくなってしまうでしょう。

「お前はいつも俺を応援してくれる。すごく嬉しい、嬉しいけど、…それ本音じゃねぇだろ?」
「…そんな、事ない、よ。」

どうしてそんな辛そうな顔をするの。私は孝介の笑った顔が好きなんだよ。楽しく野球をしている孝介が好きなんだよ。そんな顔、一番見たくないよ。だからお願い、私の事を思ってそんな顔をしないで。笑ってよ、いつもみたいに優しく笑ってよ。辛そうな孝介の顔なんて見れなくて、俯く私に孝介は私の名前を呼ぶ。その声がとても優しくて、抱きついて、全部言ってしまいたくなる。孝介の胸に顔を押し付けて、大声で泣いてしまいたい。だけど、そんな事はできない。言ってしまったらきっと孝介は謝るんだよ。ごめんって、私の嫌いな辛そうな顔で謝るんだ。そしてそれを引きずるんだよ。野球してる時もきっと私を気にかけてくれるのでしょう?彼女ならそれは嬉しい事だよ。自分の事を考えてくれるなんて嬉しいに決まってる。けれど私はそんな気持ちで気にかけて欲しくなんかないよ。ふとした時に、そういえばあいつは今何してるんだろうって、私に負い目なんて感じないで考えて欲しいんだよ。

「…孝介の事、好きだよ。」
「……」
「だけど、私は孝介にそんな風に想って欲しくない。」
「!だからっ」
「ねえ、お別れしよう。」

ごめんなさい、ごめんなさい。こんな弱くてごめんなさい。孝介を支えられなくてごめんなさい。もっと私が強かったら、寂しいなんて思わなかったら、孝介は今でも私に笑ってくれたのかな。野球をしている孝介を、たくさん見る事ができたのかな。ぽろぽろ流れ出てきたそれを手の甲で拭って見れなかった孝介の瞳をみつめた。ほら、やっぱり。私の嫌いな顔がそこにあった。だけど違うね、こんな顔をさせていたのは私だったね。だったらもう私が孝介にできる事は1つだけだよ。だから、だから、そんな顔しないで。

「さよなら、孝介。」

笑って、私が側に居なくてもいいから、隣に居なくてもいいから。私の大好きな顔を見せて、魅せてよ。私の名前を呼びながら笑った顔が一番好きだったよ。目を細めて口元に緩やかな曲線ができて、白い歯が少し見える、とっても優しい、孝介の本当の笑顔が好きだったよ。けれど私が最後に見た孝介の顔は、今までで一番私の心臓を抉るものだった。



(最後に大好きな君の笑顔が見たかったよ)



100406


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -