やさしさなんて知らなくてよかったころ

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振り | ナノ




何をしてもつまらなくて、夢中になれるものがなかった。皆は楽しそうに笑ってるのに、私は1人窓の外を眺めるだけ。自分があまりにも無関心すぎる事は昔から自覚していた。小さい頃からそんな調子だった私を心配して、母は私にたくさんの習い事をさせた。けれども私の無関心ぶりは治らなかった。楽しいと思う事ができなかったのだ。何をしてもこんな調子だった私に、母はとうとう音をあげ折れてしまった。私に何かを強要する事はなくなったし、私の心配もしなくなった。母、という檻から解放された私はますます、興味を示さなくなった。こんな風に過ごして早16年。それなりに楽しい思いはしたけれど、心から沸き上がる思いには出逢えなかった。そして刻一刻と過ぎる時間の中で、今日も平凡な1日が終わろうとしていた。

「あれ?まだいたのかよ?」
「田島…。部活は?」
「んー忘れ物取りに来た!」

誰も居ない教室で、唯1人だった私のところに、やってきたのは田島だった。机の中をごそごそ探りながら、あれーおかしいなー?なんて言っていた。彼は私とは正反対。いつも楽しそうだし、退屈なんてしていない。そして何より夢中になれる物を持ってる。私がずっと欲しい、と望んでいた物を持ってるのだ。正直、彼が羨ましかった。彼みたいになりたいと思った。だけれど、私は私でしかなくて、田島も田島でしかないのだ。どうしようもない事実なのに、私は願ってしまう事を止められなかった。

「田島は、毎日楽しそうだね。」
「ん?そりゃー楽しいよ!だって野球面白いし!」

いいな、そう言ってのが聞こえたのか、彼は私の側に寄ってきた。首を傾げながら、楽しくねーの?なんて聞いてきた。そうだよ、私は楽しくないよ。何をしても楽しくないよ。つまらない、1日1日が退屈で堪らないの。どうして私はこうなのだろう。私だってみんなと同じ様に何かに打ち込んで、目標に向かって突っ走って、達成できた時に抱き合って喜びたい。そうしたい気持ちだってあるのに、何故か私はその1歩が踏み出せないんだよ。興味があったとしても、それは初めの内だけ。私はすぐに冷めてしまう。皆が熱中している姿を見る度に、私の中の何かが冷めていった。

「私には、夢中になれるものがないの。」
「……」
「いつも、いつもそう。後悔するくせに、いざとなったら冷めてるんだよ。」

悲しい。輪の中に入れない、同じ志を共にする事ができない。どうして私はこんなに感情の起伏がないのだろう。もっと、もっと全てを感じてみたいのに。皆のように恋だってしてみたいのに。誰かを好きになる事は幸せな事だと思うもの。その人に対して一喜一憂して、その人で頭がいっぱいになって。もちろん辛い事だってあるだろうけど、それでも幸せなだと思うの。だって人を好きになるって、自分を認めてる証拠じゃない。自分を認めないで、否定して嫌いだなんて思う人が他の誰かを好きになるなんて事、ないでしょう?

「どうして自分を否定するんだよ。」

見透かされた、と思った。だってあまりにもそれが正確すぎるから。そうだよ、私は自分で自分を否定してるんだよ。だけどしょうがないじゃない。私は私が嫌いなんだもの。私が断る度に顔を歪める友達、私を見る度に溜め息を着く父親、目を合わす事をしなくなった母親。皆嫌い。私だって好きでこんな事してる訳じゃないのに。けど、そう思ってしまう自分が、そうさせてしまっている自分が一番嫌い。嫌い、私は私が本当に大嫌い。

「嫌いなんだよ、私は。自分が嫌いなの。」
「俺はお前の事好きだ。」
「…えっ?」
「お前が自分の事嫌いでも、俺はお前が好きだ。」

どうして、何で私なの。頭に浮かぶのは疑問ばかりで、田島の言ってる事が理解出来なかった。理解、したくなかった。だって理由が、私を好きになる理由が分からないから。こんなに自分を嫌いだと言う自分を、どうして田島は好きだと言うのだろう。混乱して、パンク寸前な私。田島はいつものあの人なつっこい笑顔で私に言った。

「俺がお前を好きにさせてやるよ。」



(世界が鮮やかに回り出した)



100921



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