やさしさなんて知らなくてよかったころ

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あの日から数年、私は高校2年生になった。中学生だったあの頃、高校生になった今。変わったようで変わらない私。昔だなんて言う程ではないけれど、確かにあったあの過去を私は今、やっと冷静に見つめることができた。どれだけ準太に依存していたかを。認めたくなかった。依存している自分を知りたくなかった。だから目を背けて、その現実から逃げ出した。それがあの日だった。準太の為じゃない、私が逃げ出した結果だった。けれど逃げたいと思っても、決してそれから逃げる事はできない。後回しにするだけで、逃げられるのは一時でしかない。結局は対面してぶつからなきゃならない。でなければ、過去を精算する事はできないのだと知った。だがそれも違う。過去を精算しようとする事自体が間違いなのだ。過去を消す事は許されない。間違いを犯してしまったのなら、それを一生背負わなければならないのだ。そしてそれが今なのだと理解した。

「田島頑張れー!」

私は浜田君に誘われて、西浦の応援に来ていた。今は田島君の打順で、相手のピッチャーに苦戦しているようだった。みんなが田島君を応援する最中、私の意識はそこにはなかった。呆然と、今直面してしまった現実に逆らわないでいた。正確には受け入れる事しかできなかった。どうしてここに彼が居るのだろう。どうして私は今日来てしまったのだろう。どうして私はここから動けないの。久しぶりに見た彼は、男の人になっていた。知らない彼がそこに居たのだ。ただただ、見つめる先には私の知らない人が、真剣な目で試合をしていたのだ。野球を彼は続けていたのだ。わっと歓声が沸いた所で私の意識は戻された。田島君が打ったのだ。それまで彼が苦戦していた球を、彼は打ってみせたのだった。それが試合の決定打になった。

「ありがとうございました!」

結果は西浦がシードだった桐青を破って、桐青は初戦敗退というものだった。私が通っているのは西浦で、おめでとうと笑顔で言うべきなのに、それが出来なかった。理由ははっきりしていた。試合が終わってすぐに、私は西浦の観客席を出た。敵側のベンチに行く事は不味いかもしれない、けれど私の足が止まる事はなかった。早く彼の側に行きたくて、足をたくさん動かした。だけど止まってしまった。彼が、泣いていたからだ。先輩と共に、泣きながら悔しさを噛み締めていた。その光景で一気に熱が冷めていく。側に行って私に何が出来ると言うのだろうか。何て声をかけるつもりでいたのだろう。ちっぽけな私に何が。だが、冷静になっていく頭に反して体は言う事を聞かない。今すぐ飛び出したくて仕方がない。前にも一度感じたこの感覚。あの時はそのまま無理やり抑え込んだ。けれど残ったのは大きな焦燥感。迷惑かもしれない。彼にとって私は過去の一部にすぎない。私の事なんて忘れたいに決まってる。だけど、ごめんなさい。私は貴方を過去に出来ません。ずっとこれから、きっと一生貴方を過去に出来ません。だからせめて区切りを下さい。貴方への未練をすっぱりと断ち切らせて下さい。また私の我が儘で彼を困らせるけれど、これで本当に最後です。どうか聞いて下さい。

「準太」

久しぶりに呼んだその名前に彼は振り向いてくれるだろうか。私を覚えているだろうか。不安と期待に揺れる中、私の不安は砕けて消えていった。彼が、勇気を振り絞って呟いた名前に反応してくれたから。でもここからが本当の戦いだ。弱い自分との決着を着ける、本当の戦い。でも挫けそうになってしまったの。



(会いたいと願っていたのは私だけだったみたい)



100915


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