やさしさなんて知らなくてよかったころ

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振り | ナノ




入学してから数ヶ月。新しい高校にも少し慣れ、いい友達や先輩にも出会えた。これから俺は新しい道を歩もうとしていた。毎日が楽しくて、笑って過ごしているのに、心はまだ何かを求めていた。それが何なのか俺は知っている。だけどそれこそ今さらすぎる事だ。もう何かを言える資格はない。俺はここで歩くと決めたのだ。前を向いて、過去は振り返らずに。だけど、逃げる事はしたくなかった。彼女に会える可能性なんてとても小さいだろう。だけど、それでも会えたなら、今度こそ伝えたい。儚く、笑う彼女に。

「練習始まるぞー。」
「あっはい、今行きます!」

俺はここで野球部に入った。練習は毎日あって、家に帰る頃にはいつもくたくただ。それでもやり続けるのはやっぱり野球が好きだからだと思う。ボールが俺の手から離れて、ミットに吸い込まれるのが好きだ。ミットに収まる時の音が好きだ。俺はまだ1年だし、入ったばかりだから、エースとして投げられるのはまだ先だと思う。だけどいつか、必ずあの場所で投げたいと思った。ふと、昔を想い出した。小さい頃から近所の子たちと野球をしていると、必ずと言っていいほど、彼女はにこにこしながらやって来た。だけど仲間に入る事はしなかった。彼女はまだ上手く話せなかった。俺には心を開いてくれだが、他に友達を作れずにいた。一緒に野球をやろうと誘ったけれど、彼女は中々首を縦に振らなかった。怖かったのだと思う。若干人間不信に陥っていたであろう彼女は、心を閉ざしてしまっていたのだ。だけど知っていた。彼女が野球をしたいと思っていたことを。

「なぁ、バッティングセンター行ってみる?」

なんとなく、彼女を誘ったんだ。野球をしてみたいと思ってくれる彼女に、少しでも楽しみを分けてあげたかった。俺は野球が好きだから、自分の好きなものを彼女も好きになってくれるといいな、なんて思ったんだ。俺と一緒にバッティングセンターに行った彼女はとても楽しそうだった。最初は空振ってばっかだったけど、少しアドバイスすればバットに当たるようになった。当たった時の彼女はとても嬉しそうで、ああ連れて来て良かったって思った。それからも何回か一緒に行くようになって、自然と彼女も上手くなっていった。俺はこの時間が好きだった。学校では滅多に笑わない彼女が、ここではたくさん笑っていたから。きっと俺しか知らないであろう表情をたくさんしてくれたから。俺はきっとずっと昔から彼女を独占したかったんだ。だから無理に他の子との野球は誘わなかった。そのくせバッティングセンターにはよく誘った。なんだ。そうだったんだ。俺は独占欲が強くて、彼女を手に入れたかったのか。本当に今さらすぎるよな。



(君が色褪せる事はない)



100723


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