やさしさなんて知らなくてよかったころ

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振り | ナノ




1年が経った今、俺の隣にいつもいた彼女は居なくなっていた。中2の秋、拒絶のような態度をとられたあの日から、俺は距離を置くようになっていた。でもそれは彼女の為じゃない。俺が、もう一度拒絶されるのが怖くて自ら断ち切った。ほんと、情けないと思う。たった一人の人間に嫌われる事に恐怖しているのだから。俺を大切に思ってくれるやつはきっとたくさんいるだろう。でも違う。違うんだ。彼女に嫌われる事が、彼女に拒絶される事が、世界で一番怖いんだ。彼女だから、怖い。

「まあ、この成績なら大丈夫だろう。このまま頑張りなさい。」
「はい、ありがとうごさいます。」

進路も決まって、俺は担任に模試の結果を持って行った。とりあえず見込みはあるみたいで、安心した。その時ふと、思った。彼女は、どこに行くのだろうか。同じ高校でないのは明白だが、遠くに行くとなれば、必然的に一人暮らしになるだろう。そうなったらもう会えない気がした。遠くなってしまった彼女の存在に嘲笑った。そうしてしまったのは他の誰でもなく、この俺自身だと言うのに。担任との話も終わり、ここを離れようとした時だった。彼女が、居たのだ。さっきまで考えていた彼女が、今まさにここに居たのだ。久しぶりに見る彼女に俺はただ見つめる事しかできなかった。声を掛ければいいのに、上手く言葉が浮かばなかった。そして彼女も俺をただ見つめ返していた。だが、それも長くは続かない。担任が彼女を呼んだのだ。そして彼女は我に返ったように、担任の元へと足を運んだ。その背中を抱き締めてしまいたかった。きつく、逃げられないように。だけど彼女はきっとそれを望まない。それに俺にそんな資格はない。担任に一言言って、俺はその場をあとにした。

「準太」

彼女の声が今でも頭から離れない。俺を頼って求めてくれるその声色に、酔いしれていた。それと同時に大きな喪失感が襲ってきた。彼女の事を思い出せば思い出すだけ、今この現実に彼女が俺の隣にいない、ということを思い知らされるからだ。結局俺は受け止められないのだ。現実を見つめずにただ背中を向けるだけ。彼女と向かい合う勇気がない、ちっぽけな人間なのだ。俺は彼女を振り切るように固く目を瞑った。だが、目を瞑れば浮かぶのは彼女の笑顔。忘れたいのに忘れさせてくれない。それほどまでに依存していたのだ。彼女が好きだと自覚したのは何時からだろう。彼女をこれほどまで愛しく思ったのは何時からだろう。こんなにも好きなのに、愛しいのに、その彼女は俺の隣には居なかった。その日静かに俺は声を圧し殺した。



(吐き出す勇気がない)



100720




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