やさしさなんて知らなくてよかったころ

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幼馴染みと言われる少女と話さなくなったのはいつからだっか。小学生の中学年ぐらいまでは、まだ話していただろう。僕の名前を呼んで笑い掛けてくれたのもあの頃だ。彼女が、僕との関係を完全に断ち切ったのは、中学に上がってからだった。少しずつ彼女が距離を置いている事は知っていた。けれど、それは異性を意識した戸惑いからだろうと思っていた。すぐに戻ってきてくれると思っていたのだ。そう、思ってしまった時点で、もう、手遅れだったという事にも気付かずに。


中学に上がってから、僕たちは同じクラスになる事はなかった。必然と話す機会は失われ、僕と彼女の関係を知る者はごく僅かとなった。そして噂で聞く彼女の様子は、小学生の頃とは別人ではないかと思われる程、暗い、クラスで浮いてしまうような存在となっていた。何故彼女が変わってしまったのか、幼馴染みだと言うのに僕は彼女の事を何一つとして知らなかった。それ程、僕と彼女の距離は開いてしまったのだと自覚した。


中学3年になった頃、僕は彼女とようやく同じクラスになる事が出来た。彼女との開いてしまった距離を、埋める事が出来るかもしれないと思った。だがそれはすぐにそう簡単な事ではないと知る。彼女の雰囲気が、僕の記憶の中の彼女と掛け離れてしまっていたからだ。彼女は前髪を伸ばし、顔を隠していた。そして肌を見せる事はせずに、タイツを履き、静かに過ごしていた。


彼女は他人に対して脅えているようだった。事務的な会話をするだけでもおどおどと目線を合わせる事なく、下を向く。人に対しての異様なまでの恐怖感。そして露出の少ない全身。見える所と言えば病的な白さの指先だけだろうか。まさかとは思った。これらの事を照らし合わせて、浮かぶ可能性がある。だが、下手には動けなかった。もし、僕が建てた仮説が間違っていなかったとしたら、それは彼女の命に関わる程危険な状態だからだ。彼女に聞いた所で真実を得る事はまず不可能だろう。証拠を持っていく必要があった。的確な情報を求める為に、それを得意とする桃の髪の彼女に協力してもらおうと算段した。


ピンポーン

ドアのチャイムを鳴らして、この家の住民が出て来るのを待った。ここは彼女の家だ。桃井の情報によれば、この家には彼女の母親と新しい父親も一緒に暮らしているようだった。母親が精神を病んだ時、これからは私が母親を支えるのだと、涙を堪えて僕の服を握っていた。もっと早く気付くべきだった。彼女が母親から暴力を受けていた事、彼女が母親の精神安定の為の材料として、利用されていた事。もっと早く僕が気付いていれば、今この家で起こっている出来事は起きなかったかもしれないのに。


「…どちら様ー?」


ようやく出てきた男には目もくれず、部屋の中に駆け込む。慌てる男の声を無視し、僕は彼女の元へと走った。扉が開きた瞬間に見えた、部屋の中央で倒れている彼女に向かって。


「名前!」


彼女を支えるようにして、抱き起こす。意識を失っているようだった。そして露出された腕には沢山の痣と、火傷の跡。今さっき付けられたようなこの火傷は、側に転がるタバコで付けられたものだと理解した。見られてはいけないものを見られてしまった男は、そなまま僕に襲い掛かろうとした。だがそれは後ろにいた警察、公的機関の人々により阻まれる。喚く男を取り押さえ、部屋から引きずり出した。僕は彼女を抱きかかえ、外に出る。そして救急車に運んだ。一緒に乗り込み、彼女の手を握る。僕はひたすら心の中で彼女に謝り続けた。





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