やさしさなんて知らなくてよかったころ

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Why | ナノ



煌びやかに光り輝くそれに、そっと目を細めた。今、この眼差しを見られていたとしたならば、きっと私はとても幸せそうな瞳をしていたに違いない。決し短くはなかったこれまでの道のりに、想いを馳せた。私が今こうして幸せを噛みしめる事が出来るのは、これまで出会ってきた人たちが、私を支えてくれたからだ。出会った全ての人がそうではなくても、それでもどんな出会いも、私を成長させてくれた事に変わりはない。そして、とても尊い出逢いを、した。それは幼い頃の出逢いであったけれど、一度別れてしまった出逢いだったけれど、こうしてまた二人で歩く事ができる。自分の世界に閉じ籠ってばかりだった私を、連れ出してくれた。世界を教えてくれた。一人ではないと、私を想ってくれる人がいる事を教えてくれた。世界で一番素敵な、私の大切な人、尊い人、愛しい人。



「名前、」



狂おしいぐらいに、私は彼を欲していた。全てを預けてしまいたい程に、私は彼に陶酔していたのだろう。けれど、私は私の力で立ち上がる事を決めた。だけど、それは独りではない。様々な人の力を借りた。もちろん彼の力も。頼る事を知った。辛いのならば、それを言葉にしてもいいのだと知った。独りでは立ち上がれない。けれど、立ち上がるのは一人なのだ。誰かに寄りかかったままでは、成長などしない。自身の力で立ち上がらなければ、依存してしまう。寄生してしまう。それだけは嫌だった。私はいつだって彼と対等の存在で在りたかった。彼の隣に立ち、彼と同じ景色を眺めてみたかった。後ろでも、前でもなく、私は彼の隣に立ちたかったのだ。



「名前、綺麗だよ。」



いつだって彼は、私に溢れんばかりの慈しみと、愛情をくれる。その眼差しも、言葉も、偽りなどなくて、私の心を満たしてくれる。幼い頃は愛情なんて知らなかった。ただ振るわれる暴力に耐えて、自分の殻に閉じこもった。世界は私を必要としいなかった。肉親である母親さえも、私を疎ましく感じていた。自分の何がいけなかったのか、それは幼い子どもであった私にとって、とても難解な問題であった。けれど、そんな私を征十郎は受け入れてくれた。見つけてくれた。そのままの私でいいと、私を私として見てくれた。それにどれ程私が救われたか、きっと征十郎は知らない。私が私としてこの世界に生まれ落ちたのはきっとあの瞬間だったのだ。


「征十郎も、かっこいいよ。」


真っ白なタキシードに身を包んだ征十郎は、世界で一番素敵なのではないかと思った。凄く、似合っていた。美しかった。花嫁は私なのに、ひょっとしたら征十郎の方がとても綺麗かもしれない。少し悔しくて、けれど、幸せだった。征十郎が私の手を取る。慈しむその眼差しに、私は胸が詰まった。これから私はこの人と歩いて行けるのだと、そう実感した。

ずっと焦がれていた。幼い頃から欲していた。征十郎という存在を、私は無意識に欲していた。彼に伝えたいことが沢山あるのに、言わなくてはいけないことが、沢山あるのに。それらは言葉になってくれない。喉まで込み上げてくるのに、その先へと続かない。征十郎、伝えたいのに、なんて言葉にしたらいいのか分からないの。


「名前、愛してるよ。」


征十郎は私の全てを受け入れてくれる。私の欲しい言葉を、沢山くれる。私だってあげたいのに。彼を幸せにしたいと願っているのに。涙が溢れる。まだ着替えを終えただけなのに、まだ何も始まっていないのに。私はいつだって彼に弱い。彼が発する言葉全てに、私は心を打たれるのだ。その色違いの瞳が、私を写す。

何て幸せなんだろう。私はいつかこの幸せを手放すことになるのだろうか。幸せ過ぎで怖いだなんで、そんなこと思う日がくるなんて思っていなかった。幸せという言葉は、私にはとても遠い言葉だった。手を伸ばしても、決して届かない、遥か遠くに存在するものだと思っていた。それなのに、私は今、それを、手にしている。征十郎という、世界で一番大好きな彼に、貰った。


「泣くのには、まだ早いんじゃないかな。」
「征十郎、好き、好きよ。愛してるの。」


愛してる、愛してる、愛してる。私は彼を愛してる。心から愛してる。言葉にすればそれは溢れ出す。止まらなくなる。彼が欲しいと思う。彼に欲してもらいたい。ぐちゃぐちゃと絡み出すその想いは、優しく私の頬を撫でる征十郎が解いてくれる。分かっていると、知っていると、私を受け入れてくれる。そしてそれ以上の愛を私にくれる。溺れていく。私は征十郎にそうして溺れていくのだ。


「さあ、みんなが待ってる。行こうか名前。」
「はい、征十郎。」


これから先もこうやって、手を繋いで行きたい。ずっと隣で笑いあっていたい。お互いを必要として、支え合って、暖かなで、幸せな家庭を築いていきたい。私がずっと望んでいたもの。征十郎との未来、暖かな家庭。ずっと欲しかったもの。征十郎とならきっと幸せになれる。そして私も征十郎を幸せにしたいのだ。静かな決意を胸に、私は未来へと歩いて行く。いつまでも、この手を離さずに、征十郎と供に生きていきたいと、そう強く思った。そしてそれは征十郎も同じであったと知るのは、もう少し先のお話。





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