やさしさなんて知らなくてよかったころ

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Why | ナノ



「ココアでいいか?」
「…そこはコーヒーじゃないの?」
「飲めるようになったのか?」
「…飲めない。」


不貞腐れたように呟けば、征十郎クスクス笑って、ココアを入れてくれた。相変わらず、綺麗だと思った。そして、かっこいいとも思った。本当は少し怖かったのだ。私たちの間には長い年月が流れていて、征十郎は私の事を今でも待っていてくれているのか不安だった。征十郎に連絡を取ろうと何度思ったことだろうか。けれど、征十郎の側に行く為には、自分で乗り越えなければ意味がないのだと自身に言いきかせた。そして、征十郎の待ってるという言葉を信じて今日まで過ごしてきたのだ。


「征十郎は、今年から社会人だよね?」
「ああ、名前は違うのか?」
「あはは、私実は大学行ってないの。」


征十郎と別れてから、私は心のカウンセリングを受けていた。私の精神状態は、やはりあまりいいものではなくて、少しずつ、時間を掛けて傷を癒していく事になった。そして、私は少しずつ前を向けるようになった。前を向いて、色んな世界を見る事ができるようになった。今まで私が見てきた世界はとても小さいもので、そして私はそこに閉じ籠っていた。そこから連れ出してくれたのはやっぱり征十郎で、離れ離れになっても、ずっと心の中に居た。そして私に勇気をくれた。だから言いたい事がたくさんあるのに、上手く言葉にできない。私の気持ちが全てそのまま征十郎に伝える事ができればいいのに。


「征十郎、私ずっと変わらなかったよ。あの時に言った言葉は今もそのままだよ。」
「僕もだよ。名前に対する想いは変わらずここに在るよ。」
「私、征十郎が好きだよ。きっとこの想いは一生変わらないよ。」
「名前、もう僕には名前じゃなきゃいけない部分があるんだよ。」


ねぇ、征十郎。私想像してもいいのかな。ずっと心の隅にあった、征十郎との未来を。ずっとこの先、私の隣に居るのは征十郎だと、そう自惚れてもいいかな。今はまだ、先の事かもしれないけど、いつか、貴方の隣で笑う私が居てもいいのかな。その隣に居るのは私である事を願ってもいいかな。そして小さな幼子が居る事を望んでもいいかな。


「征十郎、好き。好きよ。」
「…お帰り、名前。」


優しく抱き締められて、征十郎の温もりを感じた。ずっと欲しかったこの温もりを、私はもう二度と離さないだろう。やっと帰ってこれた。征十郎隣にやっと、戻ってこれた。幸せだと思った。今、この瞬間が堪らなく幸せだと感じた。征十郎だけに湧き上がるこの気持ちはきっと、愛おしいというものだと思った。この人支えになりたいと、ずっと側で、この人を見ていたいと思った。背中に回された腕に、心に響く彼の音を聞きながから、私は静かに涙を流した。征十郎、私たちはきっと幸せになれるね。そう想いながら、そっと力を込めて征十郎を更に抱き締めた。


「名前、愛している。」





130111
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