やさしさなんて知らなくてよかったころ

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夜、怖い夢を見た。誰も居なくて真っ暗で、いくら私が叫んでも、そこには誰も居なくて、ただ私がひっそりと存在しているだけだった。世界で一人ぼっちになってしまったのだと、そう思った。怖くなって、大声を出して彼の名前を呼ぶけれど、返ってくる声はない。手を前に翳しても、暗闇に溶けていくだけで、そこには本当に何も存在していなかった。

一人ぼっちの世界で私は嗚咽を漏らしていた。堪える事など出来なくて、次々に溢れてくる涙は、自然と私の足元に水溜りを作っていった。そしてその涙が池に、川に、湖に、海になっていった。胸の辺りまで迫っていた水は、とうに泣く事を止めた私に構う事なく増え続けていった。一面に広がる冷たい水が私の身体を覆い始め、そして私の頭まで飲み込んでしまった。息が苦しくなって、泡が溢れ出す。閉じかけ視界の中で、一つだけ光が見えた。朧げな意識の中、私はその光に向けて精一杯手を伸ばした。

ふと目を開ければ、そこに映ったのは茶色の天井だった。見慣れないその景色につられ、辺りを見回せば久しく見る事のなかった色素の薄い髪をした彼がいた。左手の温もりに気付き、目線をずらせばその手は彼に握られていた。ずっと握ってくれていたのだろう。その体温に涙が溢れた。



「…総悟、」



掠れた声で彼の名前を呼べは、握られていた左手にぴくりと振動が伝わった。がばりと勢い良く起き上がった総悟にびっくりしながらも、精一杯の微笑みを向ければ、総悟は私を力強く抱きしめてくれた。僅かに震えている身体の背に手を回せば、より強くなる腕に、嬉しさを感じた。いつぶりだろうか。彼の温もりをこの体に感じたのは。ずっと欲しかった彼の温もり。長らく彼に抱きしめてられていなかったと、そう、思った。



「…真千。」
「うん、」
「真千っ、」
「うん、ごめん。ごめんね、総悟」
「目を、覚まさないかと思ったっ、」



震える声で私の名前を呼んで、震える身体で私を抱きしめる総悟に、酷く心配を掛けたのだと実感した。ずっと私の側に居てくれたのだと、その後土方さんに教えてもらった。私の側を離れる事をしないで、ずっと私の名前を呼んでくれていた。私が暗闇を彷徨っている時も、総悟は側に居てくれたのだ。総悟が優しい事を知っている、総悟が本当は弱い事を知っている。悲しませてはいけなかった。思い出させてはいけなかった。総悟の側に居ると誓った私が、総悟を悲しませてはいけなかった。



「総悟、ごめんね。ごめん、ありがとう。ずっと側に居てくれたのでしょう?」
「…、」
「もう、二度とこんな事はしない。」
「…絶対にと、誓うか、」
「うん、絶対だよ。絶対だ。」



総悟が脆く、崩れ堕ちてしまいそうになる原因が私であってはならない。あの日、あの時、私は頼まれた。そうちゃんと共に生きていくのならば、そうちゃんを支えて欲しいと、そう頼まれた。私は、総悟と共に生きる事を選んだ。総悟の側に、誰よりも近くにいる事を望んだ。だから、私が総悟の重荷になってはいけない。総悟を悲しませる存在であってはいけない。私は、総悟といつまでも笑って過ごしていたいのだ。総悟が笑える世界を創りたいのだ。心から安心して、護りたい人の為に、総悟が剣を振るえる世界を、大好きな人たちが居る世界を護る為に、生きる剣を。

自惚れとかではなく、その護りたい人たちの中に、私も含まれていると思う。もちろん私も総悟を護りたい。総悟だけじゃない。真選組の人たちみんなを、護りたい思っている。だけど、やっぱり総悟は私にとって特別な存在なのだ。誰よりも強い彼を、誰よりも近くで護っていたい。例えそれで私が傷つこうが、どうでも良かった。だけど、総悟はそれを望まない。私が傷つくことを望まない。だから私は自分自身を、みんなを護れる力を身につけるしかなった。辛くはなかった。力を手にすれば、総悟の側に居れるのだから。



「総悟、私ちゃんと任務は完了してた?」
「…任務なんざどうでもいいんでぃ。」
「良くないよ!私頑張ったんだよ?!」
「そのお蔭で生死の淵を彷徨いやしたけどね。」
「そっ、それはそれ!これはこれだよ!」
「なんでそんな結果にこだわるんでぃ。」
「だって、さ。」



この任務の結果次第では降格なんて事もあるかもしれないじゃないか。私は総悟の近くに居たくて、ここまで努力をしてきたのだ。一番隊副隊長という位置に来るまで、どれ程の努力をしたものか。私はいつだって総悟に背中を預けられる存在で在りたいんだよ。

「ちゃんと、遂行してやした。」
「えっ?」
「任務完了お疲れさまってことでぃ。」



そう言って総悟が頭をぽんぽんと撫でてくれた。それがとても嬉しくて、思わす顔が緩んでしまった。だけど、私はすぐに後悔する事になる。任務を遂行してきたとは言え、一番隊副隊長という立場に在りながら大怪我を負うという失態をおかした私を、この目の前に居る総悟が許すはずもなかったのだ。そして私は総悟にこの後散々こき使われるのであった。







(笑っている君が居ればそれでいいんだ)





130212
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