やさしさなんて知らなくてよかったころ

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「君は不思議な人だねぇ?」
「えっ?」

この鴇時という男の子は何だか不思議な存在である。人間のくせに妖と仲良くなったり、陰陽寮とも仲良くなって。仕舞いにはその間を取り持っていたり。このちっぽけな少年の中に何があるのか、みんなを惹きつける何かがあるのだろうか。この少年の周りにはいつも人が溢れてる。人、妖、半妖。沢山の、それこそ人種を越えたモノ達が、少年の元には集まってくるのだ。それはこの少年が白紙の者だからという理由だけなのだろうか。

「君は白紙の者だそうだね?」
「えっ、あっうん。」
「その力で君は一体全体何をしたのかな?」
「えっと…?」
「君はその力で周りのモノ達を従えているのかい?」

白紙の者。そう呼ばれる者は非現実的な力を持っているらしい。そして白紙の者は帝天に見つかる事がない、とっても羨ましい存在でもあるわけで。この世界は帝天によって一生を決められている。どうやって生まれて、どうやって生きて、どうやって死んでいくか。全ては帝天の思うがままに、私達の命は転がされているのだ。けれど白紙の者は例外であって、その命は帝天に握られていない。本当の意味で、自分の意思を通せるただ唯一の存在。そんな何でも出来るその力で、少年は何かをしたのだろうか。

「人聞きの悪い事言わないで下さい!」
「おや、では何もしてないのかい?」
「当たり前じゃないですか!というか何で俺が従えてる事になってるんですか!?逆に俺の方が下僕の如く扱われるっていうのに!!!」

どうやらこの少年は力を使って、自分の周りに人を集めている訳ではなさそうだ。逆に尻に敷かれているらしい。ならばどうして、少年の周りには沢山のモノで溢れてる居るのだろうか。白紙の者、それが彼等にとっては魅力的なのか?はたまた少年にはそれ以外に惹きつける力があるのだろうか。あるとするならば、その力は一体なんだというのだろうか。私にも分かるモノだろうか。私にも彼等と同じように、少年に惹きつけられる何かを感じる事が出来るだろうか。

「どうやら私は君が羨ましいみたいだ。」
「羨ましい…?」
「ああ、私は永らく一人で居たからねえ。」

人間で数えれば、それはそれは永い刻を生きてきたであろう。その永い刻の中で私は最近一人で居る事が多かったのだ。誰かと一緒に居たいとは思わなかった。一人で居る事はとても気楽であったし、何より自由だった。私がいつ、どこで、何をしようと全ては私の自由だった。例えそれが帝天によって編まれた刻だったとしても、私にとっては自由だったのだ。いや、自由だと思いたかっただけなのかもしれないけれど。

「一人でいる事に寂しさを持った事はなかった。けれど、君を見ていると何だか私はちっぽけだと思ってしまったんだ。」

確かに一人で居る事は気楽であったし、自由であった。私が何をしようと咎めるモノは居なかった。けれど本当は側に居る誰かが欲しかったのかもしれない。思い返せば暇さえあれば、人混みに溶け込んで、人間らしい行動をしてみた事もあった。反対に自分と同じ存在だと思われるモノに近付いた事もあった。一人が好きだった。寂しくはなかった。けれど本当は話し相手が欲しかったのかもしれない。側に居てくれる誰かが欲しかったのかもしれない。私は強がっていただけだったのだろうか。

「一人が寂しいなら、こっちにくればいいよ。」
「私は妖なんだ。君とは会い居れないよ。」
「妖とかそんなの関係ないよ。俺は君と仲よくなりたい。もっと知りたいと思うよ。」
「会って間もないのに何を言うんだ。」
「確かにこうしてきちんと喋ったのは今日が初めてだけど、おれはずっと
前から君を知ってたよ。」

ずっと俺らの事見てたよね。そう言って少年ははにかんだ。知られていた。ずっと彼等を見ていたことに。楽しそうに笑う彼等が羨ましかった。私もあの輪の中に入ってみたいと思った。あの輪の中に入れたら、どんな気持ちになるのか知りたかった。でも声を掛ける勇気はないから、いつも遠くから眺めていた。それで良かった。遠くから彼等を眺めているだけでも、私は何だか楽しい気分になれた。だけど、 この少年が声の届く距離に来た時、声を掛けずには居られなかった。話してみたくなった。私も彼等のように笑ってみたかった。それだけで、私は少年に話しかけてしまったのだ。

「では、今日からそちらにお邪魔する事にしようか。」
「うん、俺は六合鴇時。君の名前も教えてくれる?」




(君が来たいなら、喜んで迎えよう)



120513
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