やさしさなんて知らなくてよかったころ

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復活 | ナノ



足を一歩前に踏み出して音を立てたそれは自分のブーツに模様を描いた。ああ、またか。とまるで他人事のように今の状況を理解する私はきっと狂ってしまっているのだろう。辺りを見回してもみえる景色は同じ。どこを見ても赤、赤、赤。多分白かったであろう壁も真っ赤に染まっていた。そして床に転がるのは私が殺した人、だったもの。今回の任務はこのファミリーのボスから情報を引き出す事。なのにそのボスはもはや認識できない。帰ったらきっと私のボスに殺されるな、と思いながら溜め息を溢した。とりあえず帰ろうと思い一歩踏み出す。が、すぐに足を止めて銃に手を掛けた。まだ誰か残ってたのか、と舌打ちをして人が居るであろう窓際に銃を構えた。引き金を引こうとしたその瞬間、影は動き目の前に現れた。それは私がよく知っている金色の男だった。

「うわーまた派手にやったな。」
「…居るなら居るって言いなよ。」

ベルは私が散らかした部屋をぐるりと見た。それはそれは楽しそうに白い歯をのぞかせて。この男はいつもそうだ。私がこうなった後に現れては楽しそうに笑う。来るならもっと早くに来て私を止めてくれればいいのに。そしたら私はボスに殺されなくて済む。だがベルはそんな事をした試しがない。自業自得だと言って傍観するのだ。確かに自分の責任なのだが、私はこうなるとまるで初めからなかったかのように記憶が抜ける。気付いたら辺り一面真っ赤、なんてよくあることで全てが手遅れなのだ。だから何がタブーでこうなるのかも分からない。こうなると対策のしようがない。しかしこのままだと私は本当にヴァリアーを追い出されてしまう。それだけはごめんだ。暗殺者になった時点で私の生きる場所はここ以外ないのだから。

「ねえ、教えてよ」
「…何を?」
「こうなる理由。」

ここを追い出されるわけにはいかない。両親が今どこで何をして、生きているかも分からない私にとってヴァリアーは唯一の居場所だ。それを手放せばどうなるかぐらい分かる。だからこそ、ベルに聞いた。彼なら知っているだろうから。毎回毎回終わると何処からか出てくるベル。そう都合良くタイミングが合うだろうか。否、きっと何処かで見ているのだ。私が狂ってしまうまでを。

私だって初めからこうだったわけではない。何時だったか、ある任務で教会に行った事があった。その教会の神父はとても優しい男で、親のいない子供を引き取って育てていた。しかしそれは表の顔だったのだ。本当の顔はマフィアとの繋がりを持った人身売買。教会で引き取っていた子供を売り飛ばしていたのだ。その時の任務は神父の暗殺と子供達の保護。簡単な仕事だった、はずだった。神父を殺して終わりだったはずたったのに、そこに居たのは繋がっていたであろうマフィア達。読まれていたのか、と溜め息をつく。100人はいないだろうが、その半分はいるだろう数を1人で相手するのはさすがにきつい。殺すだけならまだしも、今回は子供の保護も含まれている。庇いながらは難しい。しかし考えている暇はない。なんとか庇いながら敵を倒す私に神父がある話をかけてきた。私の両親の話だった。何故こいつが知っているかは知らない。だが、親の顔も知らない私にとってそんな話はどうでもいい事だった。聞き流しながら敵を撃ち抜く私に構わず話す神父。気にしてないはずだったのに、気づいたら私は神父を殺していた。この日からだ。私の記憶が飛んでしまうようになったのは。確かに何かを言われたのだ。けれどもその肝心の言葉に靄がかかったかのように思い出せないでいるのだ。

「言ったらおまえ、正気でいられるわけ?」

記憶を巡らせていた私はベルの一言で現実に引き戻された。そうか、ベルがその言葉を言ってしまったら私はきっとまた記憶を飛ばす。ベルを殺してしまうかもしれない。それだけは嫌だ。ベルを自分のこの手で手放すなんて考えただけで震えが止まらない。それこそ私は狂ってしまうだろう。ぎゅっと下唇を噛んで首を横に振る。ベルを失う事と、私の記憶が飛ぶ事なんて比べる必要はなかった。

「ん、じゃあ帰ろうぜ。」

ベルに手を引かれながら帰る私は、この手がずっとつながっていて欲しい、という浅はかな願いを抱いた。暗殺者のくせに、そう聞こえる声に耳を塞いで。




(愛してる、)
(要らないと嘆くおまえに伝えられない)



100222
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