やさしさなんて知らなくてよかったころ

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君僕 | ナノ




「君、だぁれ?」

何時だったか、ドラマで見たセリフを思い出した。この世界で一番大切な人を忘れる事は、最も残酷なことだと思った。君との思い出は確かに存在しているのに、それを覚えていない自分がいるなんて。もし、私の中から大切な人達の記憶が抜け落ちたら、私は私でいられるだろうか。答えは否だ。私は私だけでは成り立たない。私を深く支配している人、そう、目の前の彼を中心に私はやっと成り立つのだ。

「ねぇ、つまんない。」
「んー」
「つまんないよー」
「んー」
「…聞いてる?」
「んー」
「…バカ祐希」
「んー」

私が話かけても、素っ気なく返す君は、いつものアニメ雑誌を読んでいた。私と居るのになんで雑誌なの、なんて思うけど、本当はこの時間が嫌いじゃない。何も言わないけれど、側に君が居るだけで私の気持ちは軽くなる。この部屋は真っ白で、何にもないのに、君が居るだけで嘘みたいに色がつく。ねぇ、私知ってるんだよ、私が寂しくないように君が来てくれること。聞いてないふりをして、ちゃんと私の話を聞いていてくれること。君は優しいから、そんな素振り見せないけれど。君と何年一緒だったと思ってるの。ましてや私達は恋人同士だったのだから。そう、過去形なのに、私から解放したのに、どうして来るの。お別れしたじゃない。どうして…

「…嫌い、祐希なんか嫌い…。」

君を嫌いにさせてくれない君が嫌い。優しくなんてされたくないのに、どうしてそんな風に私に触れるの。本当は分かってる。君がここに来る理由を知っているよ。私の嘘を見透かしているのでしょう?君を嫌いになれない私を知っているのでしょう?知っているなら、どうか目を背けて欲しい。そして私から離れて欲しい。私から離れられないから、君から離れて欲しい、だなんて狡くて汚い。だからこんな私を見限って欲しい。呆れて、嫌いになって欲しい。

「どうして来るの、来ないでって言った。」
「…うん」
「どうして、私なんか…」

どうして私の心配をしてくれるの。君は優しい。だからその優しさは私じゃなくて、他の人に与えてあげて。君がここまで私に優しくする義理はないんだ。学校が終わったら毎日来る君。土曜日も、日曜日も、君は来てくれる。何も言わないし、見舞いの品なんて持ってこないけれど、君はずっと私の側に居てくれる。それに私がどれだけ救われているか。ここはいつも私一人だけで、つまらなくて、とても怖い。夜、月明かりに照らされて、酷く静かなこの場所で私はうずくまるしかなかった。早く朝が来て欲しい。眠る事も怖くて、私はただうずくまるだけだ。早く早く、君に会いたい。君に側に居て欲しい。君の隣に居たい。君に重荷を背負わせて、私は君を待つ。いつの間にか隣にいる事が当たり前になっていた。そんな事当たり前に感じてはいけないのに、君を頼ってしまう私がいる。だら君に別れを告げた…なのに

「私達、別れたんだよ?」
「…うん、」
「彼女じゃないよ?」
「うん、でも―」

涙が止まらない。君が言った言葉が頭から離れない。君との思い出が恋しくて堪らない。こんなに、こんなに、君を好きなのに、それを口に出せない事が、もどかしくて堪らない。言ってしまいたい、だけどそれは言ってはいけない。だって私はそう想う資格すら、持たなくなってしまうから。私の記憶は壊れてきているから。きっと大事な存在だったはずなのに、私はもう彼らの顔を覚えていない。君との過去も日を追うごとに減っていく。いつかきっと君を忘れてしまう。君を忘れてしまう自分が怖くて堪らない。

「…忘れたくない、」
「…分かってる」
「祐希を、忘れたくないっ」
「うん、…俺も忘れて欲しくない」

ねぇ、神様。いるならどうか、私の記憶から彼を消さないで下さい。この世界で誰よりも大切な彼を忘れたくない。失いたくない。お願い、神様。




(私の記憶が壊れてしまう前に)



***
エディに追憶様に提出。
参加させて頂き、ありがとうございました。

胡已 100625


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