一万打 | ナノ






段々と暗くなり始めた空を見上げながら、鞄を肩に引っ掛けて一人歩く。体育館からはもう何の音も聞こえてこない。少し早足になりながら部室へと向かった。

「失礼しまーす」

軽くノックしてドアを開くと、着替えている最中のテツヤと火神君がいた。ほっと息を吐いて中に入る。

「よかった、まだいた」
「なまえ君、どうかしましたか?」
「たまには一緒に帰ろうかと思って。いい?」
「勿論、大歓迎です」

ふわりと笑う黒子につられて笑って、火神君に視線を向ける。一緒にどうかと誘ったが、何やら用事があるらしく断られてしまった。残念。



「なまえ君と2人になるの、久しぶりですね」
「確かに。大体は火神君がいるからね」

いつもより意図して遅く、小さめな歩幅で帰路につく。隣で揺れる赤い髪は赤司君にそっくりで、二卵性と言えど双子は双子かと口元が綻んだ。まあ、兄の方には間違っても可愛いとは思わないが。

「マジバ寄ってく?」
「そうですね…それより、家に来ませんか?明日は部活もないですし、よければ泊まりで」
「え、いいの?行きたい」
「よかった。じゃあ、このまま行きましょうか」
「うん。あ、でも俺着替えとか持ってないよ」
「僕のを貸します」

すっと手を差し出せば、嬉しそうに笑って握ってくる。胸がじんわりと温かくなっていくのを感じながら、携帯を取り出したなまえ君をやや高い位置から見下ろした。どうやら家の人に連絡を入れたらしいなまえ君に「赤司君には伝えなくていいんですか?」と聞けば「あとでメールしとく」と言って僕の手を引きながら先を歩き始めてしまう。

(…変な誤解を受けなければいいんですが)



僕の家でご飯を食べて、先にシャワーを浴びてもらっている間に部屋を軽く片付けて布団を敷く。先程から鳴っているなまえ君の携帯は無視していいんだろうか。一度切れて、今度はメールと思わしき震動で震えた。
相手は多分赤司君なのだろう。
そうこうしているうちに扉がノックされて、なまえ君が入ってくる。

「ふいー。お先ー」
「お帰りなさい。携帯鳴ってたんですが…」
「あ、ごめん。多分征十郎だ……電話しとこうかな」
「そうしてあげてください。じゃあ、シャワー浴びてきますね」
「んー、いってらー」

携帯を耳にあてたなまえ君は、もう片方の手をヒラヒラと振って布団の上に座る。
風呂上がりで湿った髪とか、身長はそんなに変わらないのにサイズの合ってないシャツだとか、これはなかなかいいものを見たとにやけそうになる口元を押さえながら部屋を出た。





――十数分後。

「…やっぱり…」

髪を拭きながら部屋のドアを開ければ、布団に突っ伏したなまえ君の姿が見える。くすりと笑って側に寄ると、気持ち良さそうな寝顔が覗いていた。

「なまえ君は本当によく寝ますね」

タオルケットを手に取りながら、ふと悪戯を思い付いて悩む。実行しようかしまいか僅かに迷ったが、結局行動に移すことにした。
なまえ君の隣に寝転び、軽く抱き寄せるように腕を回す。ふと薫った香りは僕のそれと一緒で、けれどほんの少し甘くて落ち着く匂いだ。
旋毛に鼻先を埋めるようにして携帯を構え、シャッター音を鳴らす。起きてしまうかと思ったが、相変わらず緩い表情で寝入るなまえ君に笑みが零れた。撮れた写真を確認して、赤司君に送信。念のため携帯の電源を切って、いい匂いのする小さな身体を抱き締めて眠りについた。





「ちょっ…」

翌朝。擦り寄ってくるなまえ君にきゅんとしながら二度寝でもするかと意識を手放しかけていると、瞼を持ち上げたなまえ君が携帯を確認して顔色を変える。「ていうかテツヤはなんで一緒に寝てんの…!」

「携帯パンクしそうなんだけど…なにしたの?」
「僕はなにも。微笑ましいお泊まり会の様子をお知らせしたまでです」
「へー…、テツヤ」
「はい」
「あんまりからかったらダメだよ…」
「はい。なまえ君のおかげで熟睡です」
「もー!」

するりと腕から逃げていった温もりに、面白くない気分になる。けどまあ、いい夜だった。
鬼の居ぬ間になんとやらですねと呟けば、曖昧な顔で笑うなまえ君が見える。

「テツヤ、寝癖すごいよ」

携帯を片手に頭を撫でられて、今日はデートにでも誘ってみようかとらしくもないことを考えた。




――――――――――――――――――
誰?
黒子さんがキャラ崩壊してる感が否めないですがほのぼのさせたつもりでした。この二人はそれこそ兄弟のようにウフフアハハしてるといい
リクエストありがとうございました〜!






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