一万打 | ナノ






俺は最近やたら目立つ煩い犬に纏わり付かれている。
どこからともなく現れるそいつから逃げ回ること早二月、もういい加減面倒になった俺は、後ろからのし掛かってくるコイツを放っておくことに決めた。一つだけ言うのであれば、耳元で喚かないで欲しい。鼓膜が破れそうだ。

「なまえセンパイなまえセンパイ!」
「おい…お前…」
「いいんだ笠松。俺は地縛霊に取り憑かれてしまったんだ。俺は生まれてこのかた幽霊なんて見えたことないから問題ない」
「…これはそういう問題なのか」
「言うな」

同情するような、それでいて関わりたくないオーラを醸し出している笠松に恨めしい気持ちが湧いてくる。お前の後輩じゃねぇか躾くらいちゃんとしろよとは思っていてもあえて言わない。

「なまえセンパイ、放課後遊びに行きましょ!」
「は?黄瀬テメェ部活サボる気かァ!」
「ぐっは!顔は止めてくださいよ…!」

こうしてシバかれている黄瀬を見ることで少しスッとする部分があるのも事実なのである。軽くなった肩を軽く回して、床に伸びている黄瀬を見下ろした。

「ばーか」



軽い足取りで走り去ってしまったなまえセンパイに肩を落とす暇もなく、ただぎこちない動きで我等がキャプテン笠松センパイを見上げた。若干嫌なものを見る目付きで見られてしまったが気にしない。

「せ…センパイ、いまなまえセンパイ、笑ってたっスよね?」
「あ?そうだったか?」
「絶対そうっス!うわー、ヤバイ」
「いいからお前、早く起きろ。いつまでも床で寝てんな!」
「なまえセンパーイ!!」
「うっせぇ!」

ぴょんっと起き上がってなまえセンパイの後を追い掛ける。初めて見た、あんな柔らかい笑顔。

(ていうか笑ってくれたのが初めてっスね!)

この時間ならあそこにいるだろうと見当をつけて、階段を三段飛ばしに駆け上がる。屋上へと繋がるドアを開け放ってもセンパイの姿は見えなかったが、俺の目的はここじゃない。

「みーっけ」

更にハシゴを登って最上部へと辿り着けば、自分の腕を枕にして寝入っているなまえセンパイがいた。寝るの早いっスよーと心の中で話しかけて隣に座る。
無防備に開かれた唇とか、だらしなく開けられたシャツから覗く肌だとか、まったくこの人は自分がどれだけ魅力的であるかを微塵も理解していない。

「キレーな色…」

首筋をなぞるように指を這わせれば、んん、とか鼻に掛かった声が聞こえてきて自然と目が細まる。さっきの笑顔の意味とか、なんだかんだで俺を邪険にしない理由とか。

「聞かせて欲しいんスけどね」
「…ん…なにを…?」
「あれ、起きたんスか?」
「黄瀬が変なとこ触るから覚めた……で、なに?」
「んー、キスさせてくれたら教えるっス!なーんて、」
「いいけど」
「冗だ…え?」
「ん?」
「…なまえセンパイ?」



モデルらしからぬ呆けた顔に思わず吹き出してしまう。地味に引きつる腹筋を押さえながら黄瀬の髪に腕を伸ばして、軽く引っ張った。

「俺が好き嫌い激しいの知らない?」
「…知ってるっス」
「そー。嫌いな奴に毎日付き纏われたらとっくにキレてぶん殴ってるっつーの。お前わんこオーラハンパないんだもん、ほだされちゃったなぁ」
「センパイ…」
「ん?」
「キスしていいっスか」
「はは、さっきの聞いてただろ。いいよ」

わしゃわしゃと頭を撫で回しながら笑ったら、途端に真剣な眼差しを向けられて一瞬息が止まってしまった。流石はモデル、恐ろしや…なんて思っていたら上にのし掛かられていて、唇が押し付けられる。

「ん…ぅ」
「ん、」

初めはただ触れるだけだったそれが、段々と噛みつくようなキスに変わって何度も何度も啄まれる。気まぐれで首に腕を回してみたら、唇を割って舌が入ってきた。

「はふ、ぅ…や、きせ」
「なまえセンパイ、もっと口開いて」
「ん……ぁ」
「そうそう…」
「ん、っ」

どうすればいいのか分からずに引っ込めていた舌を絡め取られて、ぢゅうっと音を立てて吸われる。かと思えば優しく舐められて、くすぐったいやら気持ちいいやらで思考が忙しい。どんどん唾液が溜まっていくけど、飲み込むタイミングが分からなくて首筋を伝って流れた。

「ぷは、っあ」
「なまえセンパイ、甘いっスね」
「んあ、おま、どこ触って…んの」
「大丈夫っス、なまえセンパイが気持ちいいことしかしないんで」
「っひ、ん、」

ぺろりと首筋を舐められたかと思えば、シャツの隙間から突っ込まれた手が胸の突起をつまむ。ぞわりと肌が粟立って、思わず背が仰け反った。

「や…っ、やめ、っあ!」
「ここ感じるんスか?センパイ、初めて?」
「は、はじめて…ひっ、あぅ…!」
「へえ…やらしいっスね」

そのままぐにぐにと弄られて、何故か腰が震えた。電気を流されてるみたいに身体が痙攣してつらいのに、シャツを捲り上げた黄瀬が突起に舌を這わせるから声が止まらない。あ、涙出てきた。

「ひぁ、あ…」
「胸だけで泣いちゃったんスか?かーわい」
「黄瀬…も、終わり」
「なに言ってるんスか。これからでしょ?」
「…時間……部活始まるぞ」
「え、マジっスか!?」


ごしごしと涙を拭ったなまえセンパイが(あーあ、赤くなっちゃうっス)腕時計を見せてくれる。そんな…こんなところで…!と項垂れていると、さっさと服装を整えたなまえセンパイが立ち上がる。

「ホラ、遅れたらまた笠松にシバかれるぞ?」
「センパイ…切り替え早すぎっスよ…」
「あっはは、いやー危なかった危なかった。貞操の危機だったわ」
「同意の上だったじゃないスかー!うわあん!」
「うっせ、俺が許したのはキスまでだっつの」

わっと顔を覆う仕草をした直後に頭を叩かれて涙が出そうになる。何か言い返そうと顔を上げたら髪を鷲掴みにされて、唇に柔らかい感触が降ってきた。

「まあ、好きだよ、黄瀬」
「…………」
「部活終わったら一緒に帰る?」
「………………」
「?おーい、黄瀬くーん?」
「…お、俺も好きっス…」
「そう、よかった」
「なまえセンパイ、大好きっス!!」
「うわあ、泣くなよ」

ちょっと本気で引いてる様子を見せたなまえセンパイの鬼畜っぷりに胸が高鳴った気もするが、取り合えず手を繋いで部活に向かったらキャプテンに飛び蹴りをかまされた。
あまりの痛みに悶絶する俺を、なまえセンパイは泣く程笑って見下ろしていた。もしかしてただ単に俺が痛め付けられてるのを見るのが楽しいんじゃないかとも思ったが、まあ別に気にしないっスよ!



(あはっ、あははっ!)
(おいなまえ…地縛霊がいいのか)
(あーうん、俺のこと全力で好きっぽいのかわいいし?まあ犬より猫派なんだけど)
(なまえセンパイはネコっスよ!)
((黙れ))
(…はいっス…)
(ほら、かわいい)
(俺には分かんねぇわ)


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一回先輩主で書いてみたかったのでこのような形にさせていただきました…!微裏がどこまでなのか判断が難しかったのですが、こんな感じでよろしいでしょうか><なにかありましたらお申し付けください〜
リクエストありがとうございました!!





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