一万打 | ナノ






時刻は午後9時を少し回ったところ。携帯のディスプレイに表示された時間に、何度目かの溜め息を吐いた。

「……遅い」

冬至に程近い今の時期は、日照時間が短く日が沈むのが早い。とっくに暗闇に落ちた外を眺めるためにカーテンを引けばひやりとした空気がついてきて、思わず肩を竦める。
休日である今日、俺は一日暇を持て余し、対する征十郎は部活のため早い時間から家を出ていた。どんよりと雲が立ちこめる静かな日曜日に1人ぼんやりと時間を過ごしているとまあらしくもなく気分が落ち込んできたりもして、それでも寒さに抗おうなんて思考は持ち合わせていないためベッドから動こうとはしなかった。
しかしそれも夕方頃になれば飽きてくるわけで。

「うー、寒いなあ」

適当に着替えてマフラーを巻き、ブーツを履いて外に出る。風が少し出ているせいで目に冷風が当たり辛かった。

最近、征十郎と話してない。

大会が近いせいもあるんだろうけど、冬の物悲しさも相まって何となく息苦しい感情が湧いてくる。見えてきた学校に歩くスピードが遅くなりながらも、未だ明かりの灯る体育館へと足を進めた。

(そろそろ終わる頃だろうなあ)

適当なドアを開けて中を覗き見る。靴は履いたまま、中の熱気に目を細めた。丁度後片付けをしているらしく館内に人はまばらで、そして恐らく一軍レギュラーくらいしか残っている人はいなかった。

「(こんな遅くまでよくやる…)」
「…なまえ君?」
「ひゃああ!?」
「そんな驚かないでください…どうしたんですか?」
「あ、ああ、テツヤ…いやちょっと、征十郎遅いから様子見に」

突然ドアが開いたので何事かと横を見れば、なまえ君がひょいと顔を出した。冬なのに出歩くなんて珍しいと思いつつ声をかけると、全身を跳ねさせて驚かれる。体育館中に響いたその声に悲しくなりながらも、落ち着かせるためにゆっくりと話した。

「すみません、今日はなんだか白熱してしまって…そろそろ先生に怒られるので片付け始めてるんです」
「あ、そうなの…」

なまえ君の視線の先には赤司君がいる。先程の悲鳴でこっちに気付いたらしいけど、すぐに緑間君に向き直った。なまえ君の瞳の色が僅かに曇る。
よく分からないけど、なんだかそれがとても哀しそうに見えて、心がざわついた。

「?…なまえくん?」
「ん?ああ、邪魔してごめんね。すぐ帰……っぐえ」
「なまえっちー!!」

けれど僕が話しかければそんな表情はすぐに消えて、そこには何時も通りの笑顔が浮かんでいた。黄瀬君に突然飛び付かれた今も、困ったように笑っている。

「涼太…」
「最近会わないから寂しかったんスよー!まさか今日会えるなんて思ってなかったんで嬉しいっス!」
「あー、はいはい」
「ええ!何スかその反応…」
「涼太、テツヤ。ちょっと来い」
「あ、はいっス!」

満面の笑みを浮かべてなまえっちの表情を覗き見れば、然り気無く視線を外される。同時に一歩引いた身体に不思議に思って目を瞬かせていると、赤司っちに呼ばれてしまった。
黒子っちと一緒に軽く手を降って、「もう終わるんで部室にいて大丈夫っスよー」と声を掛けその場を離れる。

程無くして皆で部室へ入ると、そこになまえっちの姿はなかった。









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