一万打 | ナノ






「……あれ?」
「……」
「征十郎が縮んでる…訳ないか。あはは、うわっ顔怖いからやめて!」

朝。ぱちりと瞼を持ち上げれば目の前に俺より少し低い位置にある頭が見える。いつもより大分殺気の篭った目を向けてくる「俺」にただただ乾いた笑いが零れてきた。
起きたら目の前に俺がいて、びっくりしたら征十郎の声がして、眠そうに目を擦る俺が起きてもうなんだかよく分からない。

「征十郎…?」
「そうだよ。その顔で首を傾げるな…」
「これは征十郎がよくやってる。あーなにこれ、俺が喋ってる…って、どうしたの?」
「……眠い…なんだこれは…」
「ああ、だってまだ5時だし。征十郎すごいなあ、全然眠くない……あ、」
「っ」
「あー…起きれないと思う、よ。昨日散々されたし」

何時もより大分口数の多い征十郎(中身は俺)と何時もより大分凶悪な顔をした俺(中身は征十郎)は、どうしてこうなったかも分からないまま取り合えず今日は外に出ないことに決めた。腰を押さえながら震えている征十郎を見て少しだけ優越感に浸っていると、それを感じ取ったのかやや涙目になった俺に見上げられる。うーん。

「自分の上目遣いは辛い…」
「僕は自分がそんな緩い顔をしていることに耐えられないよ。くそ、なんなんだこの身体は」
「口調荒くなってるって。征十郎が全然止めてくれないからしょうがないのー」
「なまえがねだるからだろう?」
「そんなことしてない」
「してたさ」

諦めたようにうつ伏せになった俺こと征十郎にのし掛かるように身体を乗せてみる。苦しそうに息を詰めて身体をずらそうとするのを押さえつけてみれば、簡単に拘束できてなんだか楽しくなってくる。
何時もとは違う力関係に調子に乗ってしまおうかと、首筋に柔く噛みついた。ぴくりと反応を示した征十郎は、本当に俺の声かと疑いたくなるくらいに低い声で威嚇してくる。

「…なまえ」
「んー?」
「自分の身体に悪戯して楽しいかい?」
「まあ、征十郎に悪戯してるようなものだし」
「止め…っ、!」
「…たまにはそっち側もいいでしょ?見た目はいつも通りのことしてるだけだよ」

するりと脇腹に手を滑らせ、耳に口付けるようにして息を吹き込む。自分の弱点なんて分かりきっている上に今の征十郎に抵抗する術はなくて、耳の形をなぞるように舌を這わせれば「ひ、ぁう」なんて声が聞こえて少しだけ腰が疼いた。



「…っ、く、ぅあ」
「ん…」

シャツの隙間からなまえの手が入ってくる。あばらをなぞられただけで声が飛び出そうになって、この身体の感度の良さに最早呆れてしまった。未だに眠さに霞んだ思考だと快楽を素直に受け取ってしまう。どうしようもない。本当にぴくりとも動かせない身体に鞭を打つように力を込めていると、なまえの携帯が鳴った。

「せっかくいいとこなのに……こんな早くから誰だろ」
「…あ、待て」

僕の上から少しだけ身体を持ち上げて携帯を手にしたなまえに、制止の意を込めて視線を向ける。不思議そうに首を傾げている自分の表情に目眩がしそうだが、今はそれどころではない。

「?……もしもし?」
「おい、」
『あ、なまえっちスか!?ちょっと助けて欲しいんスけど…!』
「ッ…涼太、ちょっと煩い。もっと静かに喋っても聞こえるから。どうしたの?」

あまりの声量に嫌な機械音を発した携帯を耳から遠ざけて、同じく嫌な顔をした征十郎の耳を軽く塞いでやる。なにか言いたそうに口を動かした征十郎だったけれど、それよりも先に涼太が喋り出した。

『あ、すんません!えっと、青峰っちにセミ捕りに引っ張ってこられたんスけど…なんか青峰っち、テンション上がりまくりでどんどん山道に入ってって、俺頑張って追い掛けたんスけどはぐれちゃって…帰り道分かんないんスよ〜…』

最後の方は泣き声みたいになっていた涼太に心底同情した。(俺も前に大輝に引っ張っていかれたことがある)それにしても帰り道が分からなくなるほどの山なんてあったのかと感心しながらも、携帯を持ち直して口を開く。征十郎が腕に爪を立ててきた。

「…取り合えず、GPSで現在地確認して。それ見ながら来た道戻ってみて、あ、一応自分が歩いた道分かるように軽く目印つけておきなね。普通に道路に出られたらそのまま帰っちゃって良いから。大輝なら大丈夫だろうし」
『う…っありがとっス赤司っち…!……あれ?赤司っちスか?』
「え?征十郎?」
『なんか、赤司っちの声に聞こえるっス……気のせいスかね』

「はあ…」と疲れきったような溜め息が聞こえてきて、ふと自分の状況を思い出した。しまったと思うけれどこの身体だと冷や汗は出ない。なにこれ便利…と感動する暇もなく、『あれっスよね、なまえっちと電話する機会あんまないから分かんないだけーみたいな!』と陽気な声が聞こえてきて笑ってしまった。

「電話って声違って聞こえるしね」
『そうそう!じゃあ、頑張って帰ってみるっス』
「うん。頑張って」
『ありがとー。それじゃあ、また』

通話終了を知らせる規則的な機械音に、思わず苦笑してしまう。我ながらバカなことをしてしまったと思うが、こっちを向いた征十郎の顔には呆れしか浮かんでいなかった。

「なまえ…」
「ごめんー、つい、うっかり」
「全く、もう少し危機感を持て」
「はーい」



その後、2人でじゃれついていたらいつの間にか眠ってしまっていて、次に目が覚めたときにはもう元の身体に戻っていた。どこかほっとした様子の征十郎に抱き締められて、ああやっぱりこっちの方がしっくりくるなぁと思わず笑ってしまったら、珍しく征十郎も一緒に笑っていて。


(でもたまにはああいうのも、)



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途中なんだか妖しい雰囲気になりかけました。てへぺろ
かなり無理矢理感があるので、もっとここはこうして欲しいなんてものがありましたら何なりとお申し付けくださいね><リクエストありがとうございました!!




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