一万打 | ナノ






「バッシュが壊れた」

はあ、と間抜けな声が零れる。シンクを磨き上げたところで食後の片付けを終わりとして、手を拭きながら征十郎の前に座れば「だから明日は買い物だ」と続けられた。因みに今俺は夏休みを利用して京都に遊びに来ていて、高校入学して以来空いた放課後の時間で上達した料理を振る舞った後である。

「いいけど、明日部活は?」
「午後からあるんだよ。だからバッシュがないのは困る」

静かに湯飲みを置いた征十郎がちらりとテレビに視線を遣る。丁度天気予報が流されているそれが示す数字には、最早笑みすら浮かんでこなかった。


『明日の最高気温は36℃の予報になっています。皆さん熱中症などには十分注意して――…』









京都の気候面での特徴を簡潔に挙げるとするならば、夏は暑く冬は寒い、だ。今日も元気な太陽はじわじわと俺の身体を蝕み、既に体温すら越した気温は平衡感覚をも奪い去っていく。開いた自動ドアから流れてくる冷気に吸い込まれるようにして店内に入って、やっとの思いで息を吸い込んだ。ああ、空調完備万歳。

「なまえ、こっち」
「はあい」



ゴムのようなシリコンのような、スポーツ用品店にはありがちの匂いが立ち込めている店内は中々に広い。開店直後だからか人影が疎らな中バスケ関連の品が陳列されているコーナーに差し掛かれば、なまえの姿はふらふらとボールの棚に消えていった。買い物の途中で居なくなるのはよくあることなので、特に気にせず目的の物へと手を伸ばす。昨日壊れたバッシュと同じものをカゴに入れて、テープも買っておくかと踵を返せば目の前には壁が現れていた。

「……ん?」
「あらぁ、征ちゃんじゃない」

その声に視線を少し上げれば、驚いた様子の玲央が映る。その手にはスポーツドリンクが握られていた。
洛山から程近い場所に位置するこの店はうちの部員もよく利用している。会うこと自体は珍しくもないが、既にバックを下げて現れた玲央に軽く溜め息を吐いた。

「今日は午後からだぞ」
「分かってるわよ?でもホラ、今日午前中も体育館空いてるハズだから自主練しようと思って」
「…構わないが、午後まで持たせるんだよ」
「もっちろんよ!」

数あるテーピング用品を一瞥して、特定の物へと手を伸ばす。休息とは何のためにあるのかも教えてやりたいくらいだったが、そこまで馬鹿ではないことも知っているのでそれ以上は敢えて口を開かない。代わりに、聞き慣れた声が響いた後に手を伸ばしていた棚が揺れた。

「うおおおなまえだー!!!!」
「うわああああ!!」
「「……」」

この棚の反対側にはバスケットボールが並べられている。揺れる商品をカゴに放り投げて、既に早歩きで動き出していた玲央の後を追って棚の向こう側へと向かった。店内は走らない。常識だ。

「なまえちゃん!?…って、あら?」
「おや、永吉か」

幾つかのボールが転がる中に見つけたのは意外にも声の主では無く、その屈強な肩になまえを乗せた永吉の姿だった。

「おお、やあっぱり赤司も一緒だったか」
「せん、ぱい…!高い、高いです!助けて頂いたのは有り難いですけどこれこわぁ…!」
「ん?すまん」
「ナイスプレーよゴリラ! で、そこで転がってるバカは一体何をしてくれたのかしら?」
「いってー…あれ、皆いんじゃん、どしたの?」
「小太郎、早く片付けろ。商品だぞ」
「うあ、ごめーん!」

高所に震えるなまえを栄吉から受け取り、頭を押さえる小太郎を見遣る。慌ててボールを拾い始めた小太郎と、文句を言いながらも手を差し伸べている玲央が棚をすっかり元通りにするまでそう時間は掛からなかった。

「散々な目に遭ったわー…」
「小太郎、突然大声出すの止めてください…」
「んー、ごめーん!ここでなまえ見っけると思わなかったからさぁ」
「お前、そんなに乗っかったら姫さん潰れんぞ」
「そうだぞ小太郎、程々にしろ」
「アンタ自分の体重考えなさいよね!」
「え…いやまず、姫さんって俺ですか」

各々会計を済ませた所で荷物を持って再び集合する。買い物には一時間もかかっていないため、未だ昼にも遠い時間だ。

「せっかく揃ってるんだし、どっか行きたいわねぇ」
「だなあ。レオ姉めっちゃ制服だけど!」
「俺ぁハラ減ったなぁ…」
「昼まで我慢しろ。…なら隣のバッティングセンターでも行くか」
「え…それ屋外なんじゃないの…」
「動体視力を鍛えるのにもってこいだからな。なまえ、水分補給はしっかりするんだよ」
「えええー!」




皆で(腹を鳴らす栄吉を引き摺って)移動したバッティングセンターでの成績は、意外なことになまえちゃんがトップを飾る形になった。征ちゃんは軽く慣らす程度に数本打っただけだったけど、征ちゃんもなまえちゃんも一本も外さず、全てホームランゾーンに打ち込んで見せたのは流石としか言いようがない。もう、この双子なんなのかしらね!



(うあああっついよばかああぁぁああ!!)
カキーン
(うへえ、なまえまたホームランかよ)
(バットには当たるんだがなあ)
(ん、)
カキーン
(征ちゃん…せめてもう少し力んで頂戴…)
(?すまない)



―――――――――――――――――
すみません、気付いたら買い物しないで遊んでました…なぜ…/(^q^)\バッティングセンターで洛山ファミリー見付けたら然り気無く隣のコーナー入ってガン見してボールを体にくらってレオ姉に心配されたいです(真顔)
リクエストありがとうございました!これからもよろしくお願いします(^○^)




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