一万打 | ナノ






我ながらよく出来たと思う。眼下に広がる呆然とした表情ににんまりと笑って見せて、抵抗すら忘れた二本の腕を優しく引いてエスコート。あとはレオ姉にでも頼もうと肩を押したら、諦めたような溜め息が聞こえて来た。





「あらー…」

俺を見て目を丸くする玲央先輩のその妙に輝いた眼差しに堪えきれず、背後にいる小太郎の鳩尾に肘を入れる。完全に油断していたらしい小太郎の口からはくぐもった悲鳴が聞こえてきたけど、自業自得なので完全に無視だ。視界に写る長い髪は、なんだかすごく邪魔くさい。

「あらあらあら、まあー、すごいわね」
「ぐふっ…だろー?あとはレオ姉に仕上げてもらおうと思って!」
「んー、私としてはこのままでもいいと思うんだけど…そうね、せっかくだしやってみましょうか!」
「…………」
「そんな顔してたら美人が台無しよ?」
「…知りません…」





「んお?」

ちらちらと寄越される視線は確実に俺を捉えている。大方「あんな奴いたっけ?」みたいな感じなんだろうけど、とても居たたまれない。ついでに足元の心許なさも尋常じゃない。

「なんだ、誰連れてんだ?」

ボールを抱えながら不思議そうに俺を見る永吉先輩に視線を向けることもできず、ただただ玲央先輩の背中にしがみついた。さらりと揺れた髪は頬を擽りながら肩を滑っていく。「んー?」と唸りながら顔を近付けてくる永吉先輩をちらりと盗み見ると、「随分可愛い姫さんだな」と普段より幾分か弾んだ声が耳に入ってきた。

「うわっ…」
「あれ?なまえか?」
「そうよぉ、ちょーっと変身させてみたんだけど、なんだか似合いすぎてて怖いくらいなのよね!」
「さっすがレオ姉だよなー!」
「アンタもグッジョブよ!」

ぐんっと身体を持ち上げられて、永吉先輩の驚いたような顔が間近に迫る。さっき自分の顔を見せられたが、とても人様に晒すような格好ではない。流石に羞恥心が顔を覗かせ始めて、顔に熱が集まるのがよく分かった。
頭には赤いロングのウィッグを被せられ、服装は洛山の女子生徒用のもの(どこからか小太郎が持ってきた)スカート丈はまだ良心的だと思うが、更に軽くメイクまでされたんだからたまったもんじゃない。なんでメイク道具なんて持ってるんですか玲央先輩、飛び出しかけた言葉は向けられた鏡を見てすっかり引っ込んでしまった。

「何を騒いでいる」

だから、背後から聞こえた声の主とは絶対に顔を合わせたくない。さっと引いた顔の熱を気にする暇もなく、俺は精一杯の力で永吉先輩の腕から脱出した。



「あっ、こら逃げんな!」
「っ…!!」
「あらー征ちゃん、いいとこに来たわぁ」
「練習はどうした」
「いいからいいから、ちょっとマネージャーにぴったりな子連れてきてみたのよぉ」
「ほらほら、どうだ赤司!」
「マネージャー?…随分嫌がっているようだが」

いやに俊敏な動きを見せた小太郎に阻まれ、脱出は不成功に終わる。下に向けた顔にはいい感じに髪が掛かっているからきっと見られることはないだろう。俺は初めてウィッグに感謝しながらも、冷や汗を流すしか出来なくてあわあわと行き場のない手を組んだ。

「うちの部員が迷惑を掛けたようだな。すまな……」

その手を見て何を思ったのか、ぽんと肩に手を置き軽く屈んだ征十郎は至って普通の表情で俺の顔を覗き込んでくる。まったくの不意打ちに俺は為す術もなく固まり、ついでに征十郎の顔も凍りついた。

「……(終わった…)」
「じゃじゃーん、マネージャー志望のなまえちゃんでーす!」
「どうだ赤司!こんなかわいー子いたら練習も捗ると思わねー?」
「……なまえ?」

ぽかんと年相応の表情で驚いている征十郎に、引いたと思った熱がじわじわと引き戻されていく。プリーツのあしらわれたスカートを握って、恥ずかしさに滲んできた涙が零れないように上を向いた。ああ、もう!

「…こ、小太郎が…無理矢理、着せてきたのであって、決して俺の趣味ではない…から…あ、あんまり、見ないで…!」

俺から視線を逸らさない征十郎の瞳に嫌悪の色がないことに安堵するも、こんな格好をさせられて正気ではいられなくて顔を手で覆う。耳まで熱くてどうしようかと目を回していたから、「赤司が赤くなってる…」とか「この双子天使過ぎよ…」とか「んー、こんな姫さんがいたら部が活気付くなぁ」とか言ってる先輩達の言葉が俺の耳に届くことはなかった。




(……ちょっとなまえ、おいで)
(え、え?うん?)
(頑張ってねなまえちゃーん!)
(今日は俺達が仕切るからこっちはへーきだぞー!)
(さーて、んじゃ外周から行くかぁ)
((おーう!!!))


―――――――――――――――――
多分二人の間にはお花が咲き乱れています。ぶわっ。
素敵なリクエストをありがとうございました…!とても楽しく書かせてもらいました!赤司君みたいに鍛えてるわけでもない弟は、メイクまですれば引くくらい女の子に仕上げられそうです。ちゃんと男の子なのにウィッグ被せたら一瞬分からない弟主ドンマイ。ドンマイ。
少しだけおまけ置いておきます〜><














「……はあ」
「溜め息止めて、泣きたくなる」
「なまえ」
「なに…」
「これを、僕以外にも見せたかと思うと、」
「っ」
「…駄目だな。どうにも調子が狂うよ」
「…せ、征十郎」
「ん?」
「今、すごい可愛い顔してる」
「……お前に言われたくないね」


「あんまりにも可愛くていつもと違う雰囲気のなまえの姿に戸惑う赤司と、そんな赤司に不覚にもときめくなまえ」
「え?」
「この写真のタイトル」
「ちょ、それ私にも寄越しなさいよ…!」




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