一万打 | ナノ






「お邪魔します」

ご丁寧に菓子折りを持ったなまえ君を部屋に通して、お茶を淹れるために席を立つ。「お構い無く」と笑ったなまえ君に笑い返しながら、適当に本でも読んでいてくださいと言えば既にその視線は本棚に釘付けになっていた。
茶葉を開けて、沸騰した湯で緑茶を淹れる。なまえ君が持ってきてくれた練りきりを皿に移してお盆を持つと、カチャカチャと鳴る皿の音がなんだかよく響いた。今日は両親とも外出していて、しんとした空気で満たされているからだろうか。




「お待たせしまし、た…」
「ん。ありがとう」

片手で扉を開いて中に入れば、さらさらと風に揺れる髪を押さえながらページを捲るなまえ君がいて、思わずどきりと心臓が跳ねる。僕の部屋なのにそうじゃないような、不思議な感覚に聞こえないくらいの溜め息が零れた。なまえ君の纏う雰囲気は、どうも心臓に悪い。

「何か気になる本でもありましたか?」
「うん、この本征十郎も買ってたなあと思って」
「へえ…赤司君、詩集も読むんですね」
「どうだろ。買ったまま読まなかったりするからなあ」

テーブルにお盆を置いてなまえ君の隣に立てば、ほんの少し下に綺麗な赤色の双眸が見える。最近は本当にバスケ漬けだったから、こうやって二人で会うのは久々だ。僕の視線に気付いたのか此方を窺うように見るなまえ君に自然と手が伸びて、するすると頬を撫でたら笑って抱きついてきた。

「どうしたの、テツヤ?」
「いえ…なまえ君が愛しいなあと思ってました」
「あはは、相変わらず恥ずかしいことをさらっと言うね」
「そうですか?」
「うん」

抱き締め返そうとしたら、するりと腕をほどかれて行き場を無くした手が空中をさ迷う。座布団に座ったなまえ君は、お菓子を前に早く早くと急かすように僕を見上げていた。

「なまえ君…」
「?お茶、冷めちゃうよ」
「いえ、…そうですね」

今度は聞こえるくらいのため息を零して、なまえ君の隣に座る。わざわざ隣?と首を傾げているのを無視して練りきりを摘まんで、なまえ君の口元に持っていった。僕の手とお菓子との間で視線が行き来する。「テツヤ?」

「…ん、」

暫く悩んだ末に、僕が動かないことを確信したなまえ君は控え目に口を開けてお菓子にぱくついた。(このままだと埒が明きませんからね)
前髪を耳に掛ける動作に見とれてしまってやや押し付けるような形になったけど、なまえ君が気にした様子はない。ぺろりと平らげて、「俺もテツヤにやろうか」なんて笑っていた。

「いえ、僕はこちらをいただきますから」



ざあ、と風が吹いて部屋のカーテンとなまえ君の髪を揺らす。口端に僅かに残ったあんこを舐め取って、それから唇とその奥の甘さを味わうように舌を這わせた。
なまえ君の手が、縋るように僕のシャツを掴む。
甘いものは好きだ。マジバのシェイクもそうだけど、それよりももっと、なまえ君の唇が。柔らかくて温かくて、甘い。ざらついた舌が触れ合って生まれるピリピリとした快感も、なまえ君が唾液を飲み込むときに少しだけ噛まれる舌の痛みも。僕たちを繋ぐ透明な糸も、全てが愛おしかった。

「すみません、お茶は後で淹れ直しますね」


指でその糸を掬い取れば、後はもう理性と一緒に断ち切ってしまうだけ





(あ、今見えるとこに痕つけたでしょ)
(はい。虫除けです)
(もー…ダメだって)
(なまえ君もつけていいですよ)
(えっ、つけたいつけたい!)
(どうぞ)
(…やっぱいい(テツヤ恥ずかしがらなそうだし、そうなると結局俺が恥ずかしいじゃないか))
(そうですか?)

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お家デートの!意味!
ひいい…修正希望ありましたら何なりとお申し付けください(;▽;)素敵なリクエストありがとうございました…!活かしきれてなくてすみませんダッ(逃亡)




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