一万打 | ナノ






「じゃーなー」
「おー、またなー」

夕暮れ時、友達に手を振って路地に入る。ゆっくりと足を進めて耳へ流れ込む音楽を楽しんだ。段々と陽が落ちるのが早くなって、風が冷たくなってきて、これは冬が来るのもあっという間かと思いながら携帯を開く。新着メール、なし。

(珍しー。仕事かな)

いつもならすぐに帰ってくるメールがないことを不思議に思いつつも、見えてきた家の灯りにまあいいかと携帯をポケットに突っ込む。ただいまーと玄関を潜ったら、カレーのいい匂いが鼻をくすぐった。

「んー、お腹空いたー。もうご飯できんの?」
「おかえり。あとちょっとっスよー」
「やーった、ぁ……」
「?」
「…兄ちゃん?なんで?」
「明日急にオフになったから、久々に帰ってきたんス〜」
「と、泊まってくの?」
「もちろん!」
「マジで!?やった!」

俺を見て固まった可愛い可愛い弟のなまえは、俺が泊まっていくことを告げた途端目を輝かせて抱き付いてきた。それを難なく受け止めて、頭を撫で回す。

「なまえは今日も可愛いっスねー」
「兄ちゃんは今日もカッコいいねー」

今年で中学二年になったなまえは、俺によく似た顔立ちをしている。幼いのと身長があんまり高くないのが影響して大分中性的ではあるが、それでも一目で兄弟であることが分かるくらいだ。

「取り合えず、ご飯食べよう」
「うん。ね、兄ちゃん、今日一緒に寝よ!」
「いっスよー」
「へへ」

いつ兄貴ウザいとか言われ出すかとヒヤヒヤしていた時期もあったが、俺が家を出ても別段変わった様子を見せないなまえにほっと胸を撫で下ろす。何時まで経っても純粋に俺を慕ってくるなまえを、つい甘やかしすぎてしまうのはもう仕方ないことなのである。






食事を済ませ、風呂にも入ったなまえは俺の部屋で寛いでいる。一緒にベッドに寝転んで雑誌を捲るその手が止まることはないけど、瞼はたまに閉じられていてなんとなく口元がにやけた。

「なまえー、眠い?」
「…ちょっとだけ」

よしよしと頭を撫でてやれば傾いてくる身体を受け止めて、旋毛にキスをする。さっきまで雑誌を持っていた手は俺のシャツを握っていた。

「んじゃ、寝よっか」
「…ん…」

髪を掻き上げて、表れたおでこに唇をくっつける。そのまま瞼と鼻先にもキスすれば、なまえがくすぐったそうに身を竦めた。くすくすと小さな笑い声が聞こえる。

「兄ちゃん、くすぐったい」
「…なまえのくすぐったがりも相変わらずっスねー。うりゃ」
「ひゃあッ!あっ、はは!やめ…っふふ」
「しー」

逃げるように身を引いたなまえの脇腹を掴んでくすぐると、大きな声を出してびくついたから唇に人差し指を立てる。そのまま後ろから抱き抱えるようにして耳元で「静かにね」と囁けばこくこくと頷いた。素直で可愛いっスね。

「兄ちゃんのせいで眠いのどっかいったー」
「えー、俺のせいっスか?」

俺の手を持ち上げて指を絡ませながらなまえが言った言葉に軽く不満を含めた音色で答える。まあ、俺が悪いんスけど。俺より小さいなまえの手を握りながら、脚を絡めてより密着する形にすればなまえの髪からいつものシャンプーの香りがした。髪に鼻先を埋めるようにしてなまえの匂いをかいでいたら、軽く肘で小突かれる。

「なにしてんの」
「んー、なんスかね?」
「俺が聞いてるのー」
「嫌だった?」
「…別に、嫌じゃないけどさ」
「ならよかったっス」

なまえの返答ににっこりと笑って頭を撫でていたら、いつの間にか聞こえてきた寝息に笑いが込み上げてきた。本当、頭撫でられるの弱いんだなあと握ったままの手に視線を落とす。あどけなさの残る寝顔をじっと見つめて、その少し高い体温に誘われるように意識を泳がせた。
さて、明日は何して遊ぶっスかね?




(なまえー、ほんとにどこにも行かなくていいんスか?)
(うん。外出ると女の人いっぱい集まってくるし、いい)
(それもそうなんスけど…)
(それより兄ちゃん、もうすぐテストだろ。勉強しよ)
(え!?折角の休みに!?)
(休みだからだよ、ほら)
(嫌過ぎっスよおおおお!!)

―――――――――――――――
多分弟は兄と違って()お勉強出来る方です。でも何でも出来るお兄ちゃんの方が何倍もすごいカッコいい!と憧れと尊敬とがない交ぜになった感情を抱き続けて生きていきそう^^^
リクエストありがとうございました!なんだか設定を活かしきれていない感じですみません…なにかありましたらお申し付けください(´∀`;)




第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -