一万打 | ナノ






何と言うか、最近友人達の様子がおかしい。クラスが違うのにやたら遊びに来て休み時間は常に一緒にいる状況が出来上がっていたり、食堂でご飯を食べれば両脇は2人が占領していたり、部活終わりにシャワーを浴びていたら出口でじっと待ち構えていたり。

「…なー」
「なんだい?」
「なんですか?」

確か2人の家はこっちの方向じゃなかった筈だが、当たり前のように足並みが揃っているこの状況をどうするべきなんだろうか。仲良く首を傾げたこいつらを一瞥。思わず目付きも悪くなる。

「お前ら、やたら俺にべったりじゃね」

一日中付き纏われて、しかもそれが何日も続けば誰だって疲れてくるだろう。がりりとアイスの棒をかじってゴミ箱に放る。綺麗に放物線を描いたそれが吸い込まれて行くと同時に、黒子が口を開いた。

「…嫌でしたか?」
「いや、なんつーかさ…」
「仕方ないだろう?」
「へ?」
「なまえは目を離すとすぐにふらつくから」
「は?」

鞄を持ち直した黒子はなんとなく眉が下がっているような気がするが、赤司は肩を竦めてやれやれといった風だ。意味が分からない。なぜそんな反応をされないといけないのかと僅かに苛ついた感情が湧き上がる。

「ふらつくって…」
「学校に通うのは仕方ないですから、僕らがガードするしかないでしょう?」
「本当は監禁でもしていれば安心なんだが」
「でもそれじゃあなまえ君が嫌がりそうですし」
「これでも譲歩しているんだよ。なあ、なまえ?」
「………お前ら、なに言ってんの?」

こいつらマジで頭おかしくなったのか。怒りを通り越して唖然としている俺の腕を掴んだ黒子が、やけに綺麗な笑みを浮かべている。ひやりとした空気に包まれたような気分になって、言葉が喉に引っ掛かった。
ガードだとか監禁だとか、ひと欠片の冗談すら含まない雰囲気で投げ掛けられた言葉はとにかく重い。

「………」
「おや、どうかしたかい?」

目を細めた赤司が顔を近付けてくる。足が後ろに動いたけど、がっちりと腕を掴んだ黒子に阻止されてその場から動くことは出来なかった。




「…で…?」

いつの間にか赤司の家に移動して、やけに立派な和室に通される。何大人しく連行されてるんだ俺は。

「別に、僕の家でもよかったんですよ?」
「こっちの家の方が色々と都合がいいだろう。なあ、なまえ」
「…どっちも嫌だ。帰る」
「まあ、そう言わずに」

相変わらず両隣には赤司と黒子がいて、こんなに広いのになぜ向かいには座らないんだと問い掛けたくなった。目の前で湯気を揺らす湯飲みをじっと見詰めながら、自分の冷えきった手を暖めようかと考える。
ここに来るまで誰とも擦れ違わなかった。幾つかの部屋を通り過ぎて辿り着いたここはしんとしていて、まるで生活感がない。不意に、さっきの赤司の発言を思い出す。ぞわりと背中を這い上がってきた寒気に身体が揺れた。

「…――期待してる?」
「は、?」

突然耳元で囁かれた言葉に驚いて意識が現実に引き戻される。ぎこちない動きで赤司の方を向けば、やけに楽しげに笑うそいつが見えた。ていうか期待?って、なにが?

「そういえばなまえ君、僕たちにあんな発言されてもあんまり動揺しませんでしたよね。普通の人なら軽蔑したり嫌悪したり、どちらにせよとっくに逃げてますよ?」
「え、」

赤司の方に向いていた身体を引っ張られて、黒子に凭れる形にされる。なんでか手足が強張って、ろくに抵抗できない。落ちてきた影に上を向けば、さっきの黒子に負けないくらい綺麗に笑った赤司が俺の首に手を置いた。

「赤司君、なまえ君震えちゃってます。怖がらせないであげてください」
「嬉しくて震えてるのかもしれないだろ?」
「そうでしょうか…まあ、逃げないのはいいですけど」
「大丈夫さ、可愛がってあげるからね」

そのまま手が動いて、制服のネクタイが解かれる。俺の頭はもうショート寸前で全く働いてくれなくて、ただそれを見ているしか出来なかった。
なんだこれ、どうなってる?

「なまえ君…」
「…っやめ、なに!」
「その内よく似合う首輪でも買ってきてあげるよ」
「はあ…!?」
「あの、赤司君にまで乗られると重いんですけど」
「……っ…」

黒子の、やけに熱い息が耳にかかる。それを振り払う間もなく少し屈んだ赤司が首にキスしてきて、呼吸が止まるかと思うくらいの緊張感が胸を埋め尽くした。

「仕方ないだろう、お前ばかりにいい思いはさせないよ」
「今日は赤司君の方が触ってました」

赤司が丁寧にシャツのボタンを外していく様子も、ただ見ていることしか出来ない。
いや、違う。
ぷつぷつとボタンが外されていく度に心臓が煩くなっていって、目が回りそうなくらい頭に血が上る。これは。ぞわぞわと背中を駆け巡るみたいなこの感覚は。

「なまえ君、手は冷たいのに身体は熱いですね」
「っ…は…」
「やっぱり期待してたかな。可愛いね」
「ちが、違う」
「違わないでしょう?」
「素直になっておいた方が楽だぞ」

ぱさりと落ちたシャツに目をやる暇なんてない。それぞれの手が肌を直接撫でる感覚に、結論を出す前に溶け出した思考が視界を霞ませた。

(逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ)
(ああでも)
(気持ちいい)


すっかり上気した表情で眉を寄せて堪えるなまえ君に、思わずごくりと喉を鳴らす。少しずつ少しずつ張り巡らせた糸の中に、なまえ君は落ちてきてくれたようだ。手に入れたらもう離さない。例えその甘い声を、独り占めできなくたって。

「…赤司君でなきゃごめんですね」
「同感だな」






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なんだか不思議な雰囲気になってしまいましたが、楽しんで書かせていただきました…!なにか直して欲しいところなどありましたらお知らせください(><;)
リクエストありがとうございました!





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