一万打 | ナノ






征十郎と双子という微妙な立ち位置に生まれてきた俺こと赤司なまえは、幼い頃から出来の良すぎる兄との比較対象にされ続けてきた。何をやっても常に頂点に立つ兄と、何でも出来るけどそれなりの成績しか残せない弟。まあ、どちらが家にとって有益かなんて火を見るより明らかだ。
それだけの扱いの差を受けながらも、幸いにして物事を深く考え込まない性格だった俺は別段歪むこともなく成長したと思う。別に征十郎を逆恨んだりなんかもせず、表面上は仲の良い兄弟でいた。表面上、というのは、多分、心の底から征十郎に甘えたり甘えられたりなんてことを一切してこなかったからだと思う。征十郎は、一番側で育ってきた俺にとっても完璧な兄だった。家族にすら弱味を見せずに絶対で在り続ける、そんな征十郎に一種の宗教じみた感情すら抱いていた俺は、どこか一歩引いた位置から征十郎を見つめていた。



そんな征十郎が、最近俺を避けている。無意識に吐いてしまったらしい溜め息に真太郎の眉が動いた。
理由は分かりきっているのだ。征十郎が、俺にキスをした。征十郎のベッドでうっかりうたた寝をしてしまったあの日、俺の意識を浮上させたのは唇に感じた熱さだった。
それ以来気まずいのかなんなのか避けられているわけだが、こっちは驚きを通り越してとっくに冷静になってしまっている。当事者ではあるが、征十郎の中で俺は眠っていた筈だし、俺だって曖昧すぎる記憶で自信はなかった。(征十郎の態度が決定的だっただけの話だ)

「…あああー…!」
「さっきから煩いのだよ!何なのだ!」
「真太郎…」
「なんだ!」
「…付き合ってもいない人に突然キスされて、でも嫌じゃなかった俺って、一体何なんだと思う?」
「…キ…、…っ!?」
「そこで固まらないで欲しいんだけど」

びきりと固まった真太郎に苦笑を向ける。相変わらずピュアだなあと目を細めた。
イライラする。
したいことして、自分で勝手に結論付けて、もうこれから一生関わらないつもりなんだろうか。

(…そんなの)


「む…、どこに行くのだ?」
「ちょっと征十郎のとこ」
「そうか」


そんなことを許せるほど、俺はまだ大人じゃない。








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