一万打 | ナノ






僕がなまえにそういった感情を向け始めたのは何も生まれてすぐと言うわけではない。初めはただの家族だった。どこにでもいる双子の兄弟、それが僕となまえだ。
幼い頃は行動を共にすることも少なくなかったかもしれないが、小学校になればお互いそれぞれの時間の方が大切になっていった。教育の場において、双子が同じクラスになることはない。子供にとっては世界の全てである学校で、僕達はそれぞれのコミュニティを築き上げていった。
しかし、それでも仲が悪いというわけではなかった。双子は何でも分かり合えるだなんてそんなことは馬鹿げていると思うが、考える領域にはない、僕の根底から、なまえという存在は正に一心同体であった。
中学校に上がった頃から、二人の時間は減ったように思う。僕は運動部へ、なまえは文化部へ。朝練や夜遅くまでの自主練で一緒に登校することもなくなり、会話もほとんどゼロに近かった。(そもそも僕達は口数が多い方ではない)
二年生になろうかという時だったか、なまえはバスケ部に顔を出すようになった。どうやらテツヤと意気投合したらしく、一緒に帰ったりすることも増えた。大輝にちょっかいをかけられ、涼太にじゃれつかれ、敦とお菓子をつつき、真太郎と別次元の会話を交わし、テツヤと楽しげに笑い合っているなまえを見て、微笑ましさを感じつつも何か違和感が胸の中に巣食っていた。




その日は珍しく二人で遅くまで話し込んで、なまえは僕のベッドで眠ってしまっていた。仕方がないのでなまえのベッドで寝ようと立ち上がったとき、ふとなまえの寝顔が視界に移った。その僕より幼い顔立ちから目が離せなくて、気付いたら、僕はなまえに口付けていた。

「…ん…」
「…、は」

思わず自身の口を手のひらで塞いで、なまえを起こさないよう静かに部屋から出る。まるで自然なことのように、僕はその時十字架を背負った。それがいいとは思わなかった。僕がどうこうという問題ではない。単純に、なまえに普通ではない世界なんて似合わなかったからだ。
その日以降、僕は出来るだけなまえを避けた。
テツヤ達には、何の違和感も抱かせなかった。ただ何時も通りの日常を過ごせばよかったから。










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