陽炎の君 | ナノ
君を懐柔
「………!!?」
目が覚めたら、隣に征十郎君がいました。
(ええええ?あれ!?ここ俺の部屋だよな、なんで征十郎君寝てんだ!?ていうかマジびっくりした誰かと思った征十郎君で良かった…!いや、良くないけど!!)
寝起き早々冷や汗まみれになってしまった身体をゆっくりと起こす。
落ち着け、昨日何があったんだっけ?確か俺は疲れ果てながらも無事家に生還して、征十郎君に謝って、征十郎君にあやされて…
(…まさか、そのまま寝た、とか)
辿り着いた予測にざあっと血の気が引く。と思ったら頬に熱が集まるのを感じて、忙しい朝だとぐったり項垂れた。
多分、ご親切にベッドまで運んでくれたんだろう。征十郎君も部活で疲れていたんだろうし、そのまま寝てしまってもおかしくない、と思う。中学生に運ばれる俺を想像して泣きたくなった。ごめんな征十郎君、その優しさに乾杯。
「…ん…」
俺が一人で涙を堪えていると、征十郎君が小さく声を上げてシーツに頬を擦り付けた。こうやって眠っているところを見るのは初めてだが、なんだか普段よりも幼い印象を受ける。元々童顔なのもあるんだろうな。まあ、童顔もなにも子供なんだけど。
あんまり寝顔を凝視するのもよろしくないかと思いベッドから降りる。ついでにサイドに置いてある時計を確認すれば、時刻は8時を少し回ったところだった。
…ん、…8時?
「…せっ、征十郎君…!」
「ん……」
「起きろ!8時だ8時!朝練っていうか学校始まるって!」
「…おはよう、紗雪」
「おはよう…じゃなくてほら、支度しないと!」
ばたばたと慌ただしく動き回り、征十郎君の口におにぎりを突っ込んで見送る。走って行くから間に合うよと涼しい顔をしていた征十郎君が見えなくなるのを確認して、ほっと息を吐いた。因みに今日俺は休みだ。(だから昨日まで忙しかった)
「あ…お礼言うの忘れたな…」
取り敢えずシャワーでも浴びようと浴室に向かいながら、お弁当も作れなかったなーと腹を掻いた。
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